2021 Fiscal Year Research-status Report
近代初期イングランドの法学院における文芸活動に関する文化史的研究
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19K00435
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹村 はるみ 立命館大学, 文学部, 教授 (70299121)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 法学院 / シェイクスピア / 諷刺 / 喜劇 / 祝祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度に引き続き、法学院出身の劇作家ジョン・マーストンの諷刺喜劇『フォーン』(1604年)の分析を行い、特に法学院の正課である模擬裁判を喜劇化した祝祭余興との関連に着目した。模擬裁判は法学院祝祭の定番の趣向であり、マーストンが当時在籍していたミドルテンプル法学院のクリスマス祝祭(1597-98年)においては、クリスマスの王として選出された「愛の王」が召集する「反抗的な恋人の裁き」が盛大に執り行われた。この模擬裁判を援用した『フォーン』の最終場面、俗に「愛神の議会」と呼ばれる場面は、さらなる文学的捻りを付与され、中世ヨーロッパ文学で流行した「愛の法廷」のパロディーとしても機能している。中世の宮廷愛文学から近代初期の都市文学へ、法学院のホモソーシャルな祝祭空間から商業演劇へと接ぎ木されることにより、エリザベス朝末期の法学院における祝祭文化が諷刺文学の台頭を促進したプロセスを検証した。その結果、法学院祝祭からエリザベス朝末期の劇場へと伝播した諷刺的傾向は、道徳性よりも、機知の応酬に収斂していく新しい喜劇を生み出し、王政復古の風習喜劇へと続く文化的素地を創出したことが明らかになった。 また、シェイクスピアの市民喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』を16世紀末から17世紀初頭にかけて近代都市で表面化した誹謗・中傷の文化と関連付けて考察する研究にも着手した。本作品の言語的創造性は主人公フォルスタッフをはじめとする登場人物達が展開する悪口雑言に顕著に見られることは従来より指摘されているが、本年度の研究ではその文化史的背景を跡づけるべく分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により、イギリスへの調査出張を実施できないため、法学院祝祭の実態に関する必要な史料を収集することに困難が生じたため。
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Strategy for Future Research Activity |
シェイクスピアの喜劇『十二夜』『ウィンザーの陽気な女房たち』の諷刺性を、ロンドンの都市文化、特に法学院を発信源の一つとする中傷詩や諷刺喜劇の流行と関連づけて考察する予定である。芝居通の法学院生はシェイクスピアや劇団にとっては顧客であり、その文学的な傾向は無視できない重要性を有していたと推測される。16世紀後半から17世紀初頭にかけて執筆されたシェイクスピア作品に窺える喜劇性の変化は、同時代の法学院との文化的・知的交流の影響による可能性があることを明らかにした上で、近代初期都市文学における法学院文芸の文化的意義を検証する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によりイギリスにおける調査出張を実施できない状況が依然として続いている。加えて、学会や研究会がオンライン開催となっている事情も発生している。事態が回復し、感染による脅威が解消されれば、国内・国外の出張を再開する予定である。
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Research Products
(1 results)