2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00436
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
森岡 裕一 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (20135635)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 禁酒物語 / 家庭小説 / 感傷主義 / 離婚論争 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀アメリカの社会改良運動を鑑みるに、酒害からの解放をめざす禁酒運動はきわめて重要である。その点に関し、歴史的視点からの研究は比較的進んでいるが、その一翼をになった禁酒物語の研究は依然として希薄であり、とりわけわが国においてはほぼ皆無の状態にある。原因は一次資料の入手困難さにある。大量に出回った禁酒物語ではあるものの、紙質の悪さなどにより保存が困難なうえ、全米各地の図書館等に厳重に保管されており直接調査を行わねばならない。本研究は、その空白をうめるべく、資料の積極的収集と分析を核にして、禁酒物語が発生した背景、そのレトリックとイデオロギー、語りの構造などを追及し、逐次その成果を発表している。とりわけ、隣接ジャンルである家庭小説との類似点と差異に注目し、19世紀感傷主義の流れのなかで両者を比較考察するという新しい切り口に挑んでいる。それにくわえ、ジェンダーの観点から、いわゆるドメスティック・イデオロギーをを巡る議論が禁酒物語に如何に反映・構造化されているかを読み解く。その際、当時議論され始めた離婚のテーマが禁酒物語でいかなる取り扱いを受けているかを、作家の性差を考慮しつつ考究している。離婚論争は現実政治とフィクションの関係を測るうえで興味深い視点を与えてくれており、19世紀アメリカの社会思想研究にひとつの新しい知見をもたらすものと思われる。今年度は新型コロナウイルス蔓延により出張ができず新資料の発掘ができなかったこともあり、研究の重点をこれまで収集した資料分析や既に発表した論文の手直しにシフトし、くわえて、アン・ブロンテやエレン・ウッドなど同時代の英国禁酒物語作家の作品精読に傾注した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の鍵を握る米国出張による資料収集が新型コロナウイルス蔓延のため実行できず、新資料の収集ができなかった点は痛手である。しかし、これまで収集した資料の分析は順調に進んでいるし、既に発表した論文の手直しなど成果のとりまとめ作業は予定通り進行している。書物の形で中間発表ができる日も遠くないものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
可能なら夏・春の長期休暇の期間を利用してアメリカ出張を実行し資料収集に努めたい。なんといっても、資料の発掘、収集は本研究の核であり、今後も継続する必要がある。同時に集めた資料の分析を鋭意進め、成果のとりまとめを行ったのち、まとまった形で中間発表を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していたアメリカ出張が新型コロナウイルス蔓延により中止せざるを得なくなったため、旅費に計上していた支出が不要になった。また、出張の可能性をぎりぎりまで模索していたため、他の用途に使用が困難だったことにより、大幅な残金が発生した。 次年度はその分も活用し、さらなる資料収集のために有効活用したい。
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