2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Representations of Miners and Northern England in Contemporary British Drama
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19K00440
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
大西 洋一 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (10250656)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 北イングランド / 労働者階級 / 炭坑労働者 / 炭鉱 / 炭鉱ストライキ / 炭鉱演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は炭鉱および炭鉱労働を扱った20世紀前半の演劇作品を収集するとともに、昨年度に引き続きマーガレット・サッチャーが首相を務めた1980年代の「炭鉱ストライキ」に関する演劇やその他の表象文化の調査を主に行なった。いわゆる「炭鉱演劇」に関しては、労働者階級演劇をそのような下位区分でまとめて取り上げる研究がほとんどなかったため、炭鉱労働を単発的に扱った「マンチェスター派」の劇作家ハロルド・ブリグハウス(1882-1958)の一幕劇「石炭の値段」(1911)のような作品から、スコットランドの炭鉱労働者であり詩作や劇作を精力的に行なったジョー・コリー(1894-1968)のゼネラル・ストライキ(1926)の時期の作品(『争いの時に』など)に至るまで、個別に作品収集を行なった。また「炭鉱ストライキ」(1984-85)に関しては、映画『ケス』(1968)の原作者としても有名なバリー・ハインズ(1939-2016)による『ストライキの後で』や、炭鉱ストライキを支えた女性団体「炭鉱閉鎖に反対する女性たち」に関する戯曲など、未刊行のものが多数あることがわかったため、今後さらに調査を進めるとともにそれら未刊行の作品の収集方法も検討していきたい。 これらの研究内容に関しては炭鉱演劇の系譜として今後まとめる予定であるが、本年度は1984-85年炭鉱ストライキを舞台とした演劇に解説文を寄稿するとともに、20世紀前半の「炭鉱演劇」の調査の過程で発見した炭鉱を舞台としたラジオドラマ『危難という喜劇』(1924)に関する論文を執筆した。この作品は英国におけるラジオドラマ草創期に初めてラジオ放送を前提にして執筆された演劇であり、炭鉱および炭坑労働者のステレオタイプ的な表象と密接に関係する作品であると論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍による教育研究環境の激変により、2020年度に予定していた研究計画は多大なる影響を受けた。予定していた20世紀前半の炭鉱および炭鉱労働者の演劇表象に関する調査と1984-85年炭鉱ストライキに関する文化表象の収集に関しては、国内調査で行える部分はある程度は順調に進んだ。しかしながら、本年度も渡航制限のため英国出張による未刊行資料などの文献収集や専門家との意見交換を行うことができず、さらにはオンライン授業などの教育方法の転換に伴い調査研究の成果をまとめる時間の確保に大変苦労したため、全体的な進捗状況は「やや遅れている」と言わざるを得ない。本研究のテーマはこれまで類似の研究があまりなかった分野であるため、関連領域の専門家との意見交換等による客観的な論評に基づいて研究方針を調整したり、各演劇作品の重要性を見極めたりすることが必要である。今後は、海外渡航が再開された場合を想定しながらも、インターネットを活用した様々な方策を講じて研究の道筋をつけていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
予定されている研究期間内に本研究の重要な部分を占める英国での文献収集を実施できるかどうか見通しが立たないため、海外渡航ができない場合は、昨年度も示した以下の二つの方策をさらに進めて、研究を可能な限り遅滞なく行なっていきたいと考えている。 まず未刊行戯曲や公演関連資料についてであるが、最近インターネット上のアーカイブで公開されているものも増えているため、オンラインで資料が入手可能であるかを調査するとともに、北イングランドの主要劇場および劇作家に直接連絡を取り、上演の実際について資料や情報の提供が可能であるかを確認したい。 また、未刊行資料は「炭鉱演劇」という極めて限定的な主題を扱った作品に多いため、研究のもう一つの柱である「北イングランド」という地域により比重を置くことも考えていきたい。従来「北イングランド」という範疇を用いて演劇が論じられることは決して多くはないのだが、この地域を舞台とした労働者階級を登場人物とする近現代演劇を広く渉猟し、その内容を再検討することで20世紀以降の「地域」の演劇伝統を再構築するのは演劇史的にも有意義であると思われる。とりわけ20世紀初頭の「マンチェスター派」以降、産業構造と社会状況の変化に翻弄された「地域」と「労働者階級」の姿をどのような作品が取り上げていたかを調査し、その演劇表象の歴史的変遷をたどることで、これまで等閑視されてきた劇作家とその作品の文化史的意義を再考していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
昨年度同様に英国出張による未刊行資料の収集等を断念せざるを得なかったため、次年度使用額が生じた。次年度に英国への渡航が可能になった場合は海外出張旅費として使用したいが、不可能な場合は、英国内の研究機関や地方劇場および劇作家に直接連絡を取り、作品の提供が可能かどうかを探るとともに、可能な限り国内で炭鉱演劇および北イングランドに関わる一次資料や研究書および視聴覚資料(DVDやオンライン配信映像)を購入して研究体制を整えたい。
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