2023 Fiscal Year Annual Research Report
長い18世紀における原子論の影響による主体・共同体言説の多様化に関する学際的研究
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19K00441
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
川田 潤 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (70323186)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ユートピア / 原子論 / 科学 / 亡霊 / 無神論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は研究最後の年度として、原子論が「長い18世紀」において近代的主体と共同体をめぐるユートピア言説に与えた影響の総括を行った。原子論は近代的な主体の個人的かつ商業的な欲望、魂の存在を否定する無神論の根源として、批判的に捉えられつつも、同時に、その主体の欲望の効率的な活用の言説の誕生に深く関わっていたことを明らかにした。その際、王立協会に代表される科学言説と、グローバル化する近代商業主義社会を批判しつつ肯定もする理想的共同体をめぐる諸言説の関係性について、ユートピア言説がそれらを統合する役割を果たしていたことを(再)確認した。具体的には、原子論の観点から、「長い18世紀」におけるユートピア言説と科学言説との関係性の中で、主体と共同体がどのように捉えられていたのかを、ジョゼフ・アディソンの諸テクストにおいて検討をした。とりわけ、アディソン等の定期刊行物や演劇のテクストが、「亡霊」をめぐるゴシック的な傾向への肯定(イギリス文化の形成)と批判(非科学的なものの否定)をもたらしていたこと、それにより、理性を中心とした啓蒙思想への肯定と批判という二重の言説として、機能していたことを明らかにした。そして、このような研究を通じて、21世紀現在における、理性と感覚(とりわけ反感と共感、同感をめぐる)の対立状況を検討し、文学/文化研究、人文学の役割・意義をめぐる問題を、文系と理系という単純な二項対立では捉えないこと、そしてそのような考えが、現在の民主主義をめぐる諸議論において重要であることを再確認した。
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