2020 Fiscal Year Research-status Report
テレサ・ハッキョン・チャ研究―インターメディアルな文学とトランスナショナルな記憶
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19K00443
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井上 間従文 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (50511630)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | テレサ・ハッキョン・チャ / 映画理論 / サミュエル・ベケット / フェミニスト・フィルム・スタディーズ / 北カリフォルニア |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度においてはテレサ・ハッキョン・チャの文学テクストにおける映像・映画的詩学の在り処を、まずはその文体において見定めることで、文学作品のフォームとその映像・映画的効果との共振的な関係性について調査した。そこで重要となるのがチャが影響を受けつつも、独特の方法で解釈を行ったアイルランド出身の劇作家・詩人のサミュエル・ベケットである。2020年度は、これまで度々指摘されながらも研究が進んでこなかったベケットとチャの文体の類似点と差異について綿密な読解を通じた研究を行った。そしてテオドール・アドルノなども称賛する「醜いもの」への滞留を通してブルジョア社会においてイデオロギーと化した「美しさ」に抗うベケットの詩学から、チャが大いに影響を受けながらも、その文体のリズムにおいてより「崇高」な高みへ上昇を試みていたことについて読解作業を進めた。 こうしたチャの上昇を試みる文体は、社会で不可視なままにとどまる映像の世界へと上昇する欲求への現れでもあったが、これらはチャを取り囲んだ1970年代北米でのフィルムスタディーズとフェミニズムの勃興と大いに関連がある。そこで本年度はチャが実際に創作や研究を行った1970年代北カリフォルニアの文脈において展開したフィルム・スタディーズの流れ、特にフェミニスト・フィルム・スタディーズの潮流を準備した雑誌群についての実証的研究をオンライン・アーカイブでの調査をもとに行った。1970年代初頭にロサンジェルスで刊行されたWomen and Film,同年代中盤にバークレーで創刊されたCamera Obscura, Discourseなどの雑誌が徐々にフェミニスト映画理論誌へと発展する過程を追うことで、これら雑誌において英語翻訳が進んだCinema Appratus(映画装置)をめぐる理論と、チャ独特の映画装置論との共鳴と差異とをめぐる基礎調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウィルスの影響でバークレー及びワシントンDCで予定していたアーカイブ調査が全く行えず、特にチャと1970年代映画理論との関係性をめぐる研究面で遅れが生じている。本研究から派生したトピックについては英語圏で刊行される論文集および学術誌の特集号などから執筆依頼があり、テクスト読解を主とする研究作業を順調に進めている。またテレビ電話を利用して、アメリカおよびフランス在住のチャ研究者たちとも交流を続けているが、対面での意見交換には代えがたい部分があるのも事実であり、研究ネットワーク形成に関してもやや遅れが発生していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウィルスの状況変化にも依るが、Berkeley Art Museumをはじめとするアーカイブでの資料調査に関しては2021年度後半に現地での調査を行う予定である。また同時に、チャが影響を受けたとされるChantal Akerman, Terry Fox, Thierry Kuntzel, Maya Deren, Michael Snow, Chris Marker, Carl Dreyerなどについてもチャ本人の資料も参考にしながら研究を進める。 論文執筆についてはイギリスの学術出版から刊行予定のアメリカ詩に関する論文集にチャとそれ以後の詩人についての章を寄稿予定である。また東アジア研究と美学・芸術学を領域とする英語学術誌にも招へい論文を掲載予定である。その他、幾つかの英語論文執筆が進んでいる。 映画理論についてはChristian Metz, Raymond Bellour, Jean-Louis Baudryなどの1970年代フランス映画理論が、特に1968年代以後の北カリフォルニアの社会運動と学術運動の変容の中でいかに受容されたかを中心に実証調査とテクスト読解を行う。 またコロナウィルス状況がある程度収束し、バークレー、ワシントンDC,パリなどにいるチャ研究者たちとも対面での意見交換が可能となった場合に備えて、共同研究の準備を再開する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス状況下のため、バークレー、ワシントンDC、パリへの出張が出来なかった点、そして予定あるいは参加を検討していた国際学会への参加ができる状況ではなかった点がなによりも次年度使用額が生じた理由である。 今年度は上記の場所におけるアーカイブ調査および共同研究者たちとの意見交換と打ち合わせを、コロナウィルス状況の変化に応じて柔軟に実施できる準備をする予定である。海外渡航が可能となれば、前年度に予定していた出張計画を実施し、調査、意見交換、打ち合わせを行う。学会参加に関しては現地参加、オンライン参加の双方を柔軟に検討する計画をたてている。
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