2020 Fiscal Year Research-status Report
オブジェクティヴィズムの機能:アメリカ詩人パーマーの作品における「対話」の分析
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19K00445
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山内 功一郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20313918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 詩 / アメリカ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画期間の二年目にあたる2020年度には、詩誌『現代詩手帖』に「時の反響室」を発表することができた。これは2020年2月に静岡大学で行われた吉増剛造の朗読会の様子について詳述しつつ、この詩人の創作において生成する多声音的な空間について分析した論文である。吉増氏の詩作は本研究課題の対象となる詩人、マイケル・パーマーの詩作と交錯し共鳴しあう要素に富んでいる。とりわけ詩作品を詩人個人の単なる感情表白やメッセージへと収束させずに対話空間へと開いていく吉増氏の実践を分析することは、本研究課題を進めるうえで非常に有益な実績となった。またこの分析を通して、公共空間で自由にやり取りを行うことが困難な現在においてこそ詩が果たしうる機能を検証することにもなった。この検証は、詩を一部の専門家のみの閉域から解放する試みにも繋がると考えられる。 その他の実績としては、学会誌『英文学研究』に発表した飯野友幸著『フランク・オハラ――冷戦初期の詩人の芸術』の書評も挙げることができる。あくまでも書評ではあるが、その執筆を通して自らアメリカ詩における創作プロセスの特徴について検証することができたので、この成果も本研究課題に取り組む上で直接・間接を問わず効果的に活用できることが予想される。 なお2020年度はコロナ禍及び社会情勢的な条件を鑑みて海外におけるリサーチ等はやむを得ず見送ったが、マイケル・パーマー氏とは有意義なやりとりを行うことができた。その過程で得られた情報も、研究を進捗させるうえでに大いに役立つことが見込まれる。 総じて2020年度には、研究課題「オブジェクティヴィズムの機能:アメリカ詩人パーマーの作品における「対話」の分析」を遂行するために、構想の大枠を設定することができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理由は、当初予想していた以上に多角的な視点から本研究課題に取り組む契機を得たことである。とりわけ吉増剛造氏を始めとする日米詩人による創作の在り方を分析できたことは、今後の進展においても有効に作用することが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は海外における現地調査を実施にする予定であったが、いまだにコロナ禍の影響下にある社会状況を鑑みて、ウェブ上のアーカイブやデータの利用を選択肢に入れる。また日本はもとよりアメリカ在住の詩人たちや研究者たちへのインタビューが必要となった場合には、動画通信ソフト等を活用して行う。その場合には、特にアメリカにはパーマーのオブジェクティヴィズム的な実践を高く評価する研究者や批評家たちが在住しているので、彼らから情報を得る。 コロナ禍が収まり海外への渡航が可能となった場合には、有力な英米詩研究者が所属するアメリカの大学を始めとする公的機関の図書館・アーカイヴでリサーチを実施する。そして帰国後に収集資料の整理を行う。ただし海外渡航が困難でも、上述のように十分に安全面に配慮した環境下で研究を進めることが可能であると予想している。
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