2021 Fiscal Year Research-status Report
Literature of Sensibility formed by media with a focus on late eighteenth-century women poets
Project/Area Number |
19K00449
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田久保 浩 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (20367296)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 18世紀 / イギリス文学 / フランス革命 / ロマン派 / メディア / 詩 / 女性作家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はイギリスのイデオロギー転換期である1790年代の詩と出版メディア上の言説を検証するものである。第3年目の2021年度は、1780年代、新進の女性詩人として注目を集め、1791年以降は、フランスに居住して現地からのフランス革命の進行を記録した8巻の『フランスからの手紙』の作者として知られるヘレン・マライア・ウィリアムズに焦点を当て、後のワーズワースおよびシェリーとの作品上、思想上の関連を探った。10月17日、オンラインにて開催された2021 年度イギリスロマン派学会全国大会にて」シェリーの “Mont Blanc” とヘレン・マライア・ウィリアムズ」の題目で、口頭研究発表を行い、ウィリアムズのテクストに見る啓蒙思想を色濃く反映する自然観がシェリーの詩に反映されていることを論じた。また同じ題目で、徳島大学発行『言語文化研究』29巻に論文を発表した。同論文で取り上げたウィリアムズの旅行記に付録として収められたフランスの地質学者で政治家のラモン・ドカルボニエールからの翻訳をめぐって、ワーズワースやシェリーのロマン派的特徴について論じる研究発表の応募がBritish Women’s Writers Conference 第30回大会に採用され、2022年5月21日にテキサス州、ベイラー大学にて発表の予定である。本課題の研究期間の最終年となる2022年は、1790年代を経て、抑圧的な時代にあって、女性詩人たちの声はどう変化したのか、「感受性」が、メアリー・タイやシャーロット・デイカーら、19世紀初頭の時代の女性詩人の作品においてどのように変容していったのかという問題についても研究を進める予定である。1790年代の政治的抑圧の言説を経て感受性の文学の表現がどう変化したか明らかにすることで、本課題の結論としたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が意図するイギリス・ロマン派文学を、感受性の文学とその主要な担い手である女性詩人、そして啓蒙思想を背景とするフランス革命およびその反動としてイギリス国内で高まった政治的抑圧というコンテクストのもとにとらえる研究は着実に進展している。研究の第一段階においては、ロバート・メリーとメアリー・ロビンソンに焦点を当て、作品内で相互に応答しつつ綴られるデッラクルスカ派の奇抜大胆な恋愛歌がフランス革命の理想という政治的テーマにおける共感へと発展を見せる過程を検証した。第2段階としては、フランス革命の展開についての同時代記録者として知られるヘレン・マライア・ウィリアムズの1780~90年代の韻文、散文と、ワーズワースやシェリーとの思想的、文学的親近性について、特に、ウィリアムズの訳したフランスの地質学者、政治家ラモン・ドカルボニエールのテクストを介して調べる作業を行っている。この検証作業の結果、ウィリアムズらの感受性の女性詩人たちとワーズワースらとの文学的親近性が明らかになりつつあり、いわゆるイギリス・ロマン派文学とは、1790年以前の感受性の文学が抑圧的な政治、文化状況により表現の形を変化させたものに他ならないという見解に至っている。当初、研究の成果を第3年目にあたる2021年に国外の学会で発表する計画であったが、海外渡航の問題から、1年延期して2022年5月にテキサス州ベイラー大学で開催のBritish Women Writers Conferenceにて口頭発表を行う予定である。発表内容は英語論文の形で発表する予定である。同時に感受性の流れをくむ女性作家たちの声が、民主思想や同性平等論を「ジャコバン主義」として激しく攻撃する言説によりかき消されてゆく過程の全容の把握に努めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1790年代の「感受性」と男女平等、民主思想が厳しく抑圧される状況をコンテクストとしてその前後の作家たちを研究するなかで、1790年代以前の女性詩人たちにおける想像力についての考え方と、その後ロマン派とされる詩人たちの間に、根本的な差がないことが明らかになってきている。本課題による4年間の研究計画の最終年にあたる2022年度は、ヘレン・マライア・ウィリアムズの散文『スイスへの旅』(1798)と『フランス共和国における習慣と世論』(1801)とワーズワースやシェリーのテクストを比較し、両者の想像力論と政治観について検証する作業を継続する。抑圧的な時代にあって、「感受性」の表現が、メアリー・タイ、シャーロット・デイカーら、19世紀初頭の時代の女性詩人の作品においてどのように変容していったのかについて研究する計画である。すでに1983年にジェローム・マッガンは、「1790年代の若いリベラルな作家たちの生き方には随所に社会的な置き換えと政治的な概念修正がみられる」とが指摘していたが、生き方のみならず、フランス革命の理想が、文章の表現においては、まったく別の形を装わざるを得なかったということが明らかになると目論んでいる。「感受性」の女性作家たちと後のイギリス・ロマン派との間には連続性がある。イギリスにおいて革命的理想を表明し続けることは、これは社会的に不可能であり、代わりに、想像力こそが社会的な革命に先立つ人間としての根本にかかわる要素であるというロマン派の中心的テーマに主張を内面化したというのが現在の見解である。以上の研究成果により、感受性の理想の意義、18世紀女性詩人の重要性の認知という点において、貢献できることを目指している。
|
Causes of Carryover |
2020年度予定していた調査旅行がコロナ禍で中止となり、また2021年度に予定していた海外での研究発表も参加できなくなったため、文献の購入の費用に充当した。2022年度はアメリカ、テキサス州ベイラー大学での研究発表(British Women Writers Conference 2022)が決まっているため、そのための旅費に使用したい。
|