2019 Fiscal Year Research-status Report
'To Make You See': The Concrete in Joseph Conrad and Paul Klee
Project/Area Number |
19K00451
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ジョウゼフ・コンラッド / 印象主義 / 写実主義 / 歴史小説 / パウル・クレー / 可視 / 美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「見せる」美学を宣言しながら、最終的には可視的な事物の写実的表現を超えようとした画家パウル・クレーの美学を参考にしながら、ジョウゼフ・コンラッド晩年の「歴史小説」が追及した「リアリティ」を、抽象された具象形象とも言うべき新たなリアリティ創造の試みとして再評価することである。この目的の下に以下の二点の論考をまとめた。①2019年度前期はサバティカル研究休暇中に、抽象を経由し具象的形象へ向かったパウル・クレーの「見せる」美学と、コンラッドの「西欧の目」による「見せる」美学との共通点を、それぞれの評論・日記の精読を通して確認する作業を行った。とくに、スイス・ベルンのパウル・クレーセンターでは、クレー所有のコンラッド蔵書を閲覧することができ、クレーがコンラッドを読んだことは確認できたが、どう評価していたかについては今後のクレーの資料の公開をまたねばならない。コンラッド晩年の「リアリズム」が、単純に具象に回帰しているというよりは、抽象/具象という二項対立を切り崩しているとを確認した。②コンラッドの『勝利』(1915)において、背景に流れる音楽への関心を、「過ぎ行くもの」に対するテクストの関心ととらえ、最後の長編『サスペンス』が実演する「これから生起する出来事」(未来)と、音が象徴する過去の間の「現在という観念の世界」に住まう主人公ハイストの物語として『勝利』を分析し、論考にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記①2019年度前期はサバティカル研究休暇中に、抽象を経由し具象的形象へ向かったパウル・クレーの「見せる」美学と、コンラッドの「西欧の目」による「見せる」美学との共通点を、それぞれの評論・日記の精読を通して確認する作業を行った。とくに、スイス・ベルンのパウル・クレーセンターでは、クレー所有のコンラッド蔵書を閲覧することができ、クレーがコンラッドを読んだことは確認できたが、どう評価していたかについては今後のクレーの資料の公開をまたねばならない。コンラッド晩年の「リアリズム」が、単純に具象に回帰しているというよりは、抽象/具象という二項対立を切り崩しているとを確認した。サバティカル休暇が取れたため、この成果は予定していた口頭発表ではなく、論文にまとめた。現在学術誌への投稿準備中である。
上記②コンラッドの『勝利』(1915)において、背景に流れる音楽への関心を、「過ぎ行くもの」に対するテクストの関心ととらえ、最後の長編『サスペンス』が実演する「これから生起する出来事」(未来)と、音が象徴する過去の間の「現在という観念の世界」に住まう主人公ハイストの物語として『勝利』を分析し、論考にまとめた。論文を英国で出版されるあるアンソロジーに一章を寄稿する予定だったが、現在締め切りが数カ月単位で延長されており、依然審査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
上の①パウル・クレーとジョウゼフ・コンラッドの美学の類似点を通して考察するコンラッド晩年の「歴史」及び「リアリティ」については、論考にはまとめたが、出版までの見通しが立っていない。
②のコンラッド『勝利』論についても、出版が数年単位で先延ばしにされるようであれば、状況次第では国内外の他の学術誌への投稿に切り替えるか、あるいは英語での単著の一部に組み込むことにことを考え、さらに加筆することも視野に入れている。
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Research Products
(2 results)