2021 Fiscal Year Research-status Report
'To Make You See': The Concrete in Joseph Conrad and Paul Klee
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19K00451
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 音 / 音楽 / 過去 / 抽象 / 具象 / ジョウゼフ・コンラッド / ものそのもの / 現実 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍により、当初の研究計画の順序と発表の媒体は多少変更せざるを得なかったものの、研究内容そのものはむしろ計画の再調整の過程で深まった。また、これらの研究がもたらした知見と成果は、コンラッドの晩年の歴史小説『放浪者 あるいは海賊ペロル』(幻戯書房 2022)を翻訳するさいに最大限に活かされた。当初の研究計画②に従って、『勝利』(1915)において、背景に流れる音楽への関心を、「過ぎ行くもの」に対するテクストの関心ととらえ、音が象徴する過去の間の「現在という観念の世界」に住まう主人公ハイストの物語として『勝利』を分析した。この研究成果を、当初の計画⑤コンラッドにおける音楽と他の芸術の関係に関する考察と関連付け、ブルガリアUNIVERSITY OF VELIKO TARNOVO主催の学際的学会NARRATIVES OF INTERCULTURAL MEDIATION (2022年3月11-12日オンライン開催)にて発表した。過去を対象とする際に、意味を生成する上で言葉に依存する以外に、「音」や「音楽」という経路をコンラッドが作品のなかでたどっていることを論じることにより、現在の現象の再現としては、劇や映画との翻案という観点から論じられることの多い『勝利』に新たな光を当て、再評価した。計画①(2019年度)をもとに、抽象を経由し具象的形象へ向かったパウル・クレーの美学がコンラッドの美学と多くの共通点を持つことから、抽象/具象という二項対立を切り崩すコンラッドの「リアリズム」を理解する手がかりを、コンラッドの中編「追いつめられて」と長編『ロード・ジム』のテクストにさぐり、本採択課題の研究目的である「ものの見え方」(印象・表象)へのこだわりから解放されたコンラッドによる「ものそのもの」への新たな接近の試みを跡付けた。その成果を2022年9月の英国コンラッド協会の年次大会(ハイブリッド予定)で発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により発表予定の国際学会はオンライン開催となった。また、学会誌も当初の予定とは違うものに変更を余儀なくされたが、研究の発表と投稿自体は予定通り行った。まず、ブルガリアUNIVERSITY OF VELIKO TARNOVO主催の学際的学会NARRATIVES OF INTERCULTURAL MEDIATION (2022年3月11-12日オンライン開催)にて、過去を回想する際に、意味を生成する上で言葉に依存する以外に、「音」や「音楽」という経路をコンラッドのテクストたどっているさまを跡付けることにより、物語内の出来事を現在の現象の再現としてとらえ、劇や映画との翻案という観点から論じられることの多い『勝利』を視覚とは違う聴覚という経路を通した物語として再評価した。 また、抽象を経由し具象的形象へ向かったパウル・クレーの美学がコンラッドの美学と多くの共通点を持つことから、抽象/具象という二項対立を切り崩すコンラッドの「リアリズム」を理解する手がかりを、コンラッドの中編「追いつめられて」と長編『ロード・ジム』のテクストにさぐり、本採択課題の研究目的である「ものの見え方」(印象・表象)へのこだわりから解放されたコンラッドによる「ものそのもの」への新たな接近の試みを跡付けた。その成果を2022年9月の英国コンラッド協会の年次大会(ハイブリッド予定)で発表する予定である。コンラッドにおける「女性」や「フランス」に焦点を当て、本採択課題が研究対象としているコンラッド晩年の歴史小説再評価に大きな一石を投じるロバート・ハンプソンによる最新のコンラッドの伝記が2020年に出版され、本研究の知見と成果を活かし、日本語に訳す機会を得た(松柏社より出版予定)。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のここまでの研究発表において、抽象/具象という二項対立を切り崩すコンラッドの「リアリズム」を理解する手がかりを引き出し、「ものの見え方」(印象・表象)に対するこだわりから解放され、「ものそのもの」へのさらなる接近を試みるに至るコンラッドのテクストの変遷の過程を分析できた。従って、その成果を今後は、当初の計画④思考と(語りの)対象は経験に先立って一致しているのか、「偶然」に結びついているだけなのか、という問いを実演する物語としてコンラッドの後期小説『チャンス』(1913)を分析する予定である。『チャンス』における「偶然」の問題は、カトリーヌ・マラブーが示唆した、超越的なものの生成変化の可能性という観点から、コンラッドの中編「追いつめられて」と長編『ロード・ジム』のテクストの読解をもとに、本採択課題の研究目的である「ものの見え方」(印象・表象)へのこだわりから解放されたコンラッドによる「ものそのもの」への新たな接近の試みとして、2022年9月の英国コンラッド協会の年次大会(ハイブリッド予定)で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた英国、ポーランドでのコンラッド学会での発表がすべてオンライン開催になったので旅費を使用しなかった。2022年度はイタリア、ダヌンチオ大で開催される英国コンラッド学会第49回大会(対面予定)にて研究発表の際に渡航費を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)