2022 Fiscal Year Research-status Report
'To Make You See': The Concrete in Joseph Conrad and Paul Klee
Project/Area Number |
19K00451
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 絵画 / 視覚 / 具象・抽象 / 印象主義的手法 / 模倣 / 写実的語り / 素描 / 精神・思考 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンラッドが晩年の歴史小説群において、かつての印象主義的な個人的語りを離れ、一見伝統的な非個人的語りに戻ることは、想像力の枯渇による伝統的な写実への回帰と考えられてきた。しかし、晩年の作品群における「歴史」は、単純に現実の模倣としての「リアリティ」を再現しているとは言えない曖昧さを持つ。そこで本研究は、この「歴史」への回帰を、「ものの見え方」へのこだわりから解放された作者による「ものそのもの」への新たな接近の試みととらえなおし、抽象された具象形象とも言うべき新たなリアリティ創造の試みとして再評価することを目的としているが、2022年はオンラインでの二度の国際学会において、このテーマに関して二点研究成果を発表した。2022年3月にブルガリアで開催された「異文化の間を仲介する物語」をテーマとする国際学会では,評価の分かれる後期作品『勝利』における「音楽」のメタファーと過去の記憶の関係性を論証した。同年9月には英国ジョウゼフ・コンラッド協会の大会にて、視覚的印象主義ばかりが論じられるコンラッドの物語に登場する「亡者」に注目し、コンラッドにおいて、現実が視覚的あるいは絵画的に統合されるのではなく、「思考」のなかで「素描」としてとらえられるさまを検証した。本研究は、コンラッドと同じく「見せる」美学を宣言しながら、最終的には可視的な事物の写実的表現を超えようとした画家クレーの美学を参照点としているが、クレーも絵画の技法に取り入れた音楽と、クレーの芸術において重要な「素描」という切り口で研究を進め、発表した。残された課題が、コンラッドの思弁的唯物論者的側面を明らかにする作業のみとなった。同時に、「眼で知覚されるというより、精神によって思考される」ものの姿の「見えない線」というベルグソンの「素描」についての概念(『思考と動き』)とコンラッドの晩年の具象への関心の親近性にも気づいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年3月にブルガリアで開催された国際学会にて,コンラッドの後期作品で評価の分かれる『勝利』における「音楽」のメタファーと過去の記憶の関係性を取り上げ、'Music Resounding from the Past in Joseph Conrad’s Victory'と題して発表し、同年9月には英国ジョウゼフ・コンラッド協会第49回大会にて、'Drawing the blindness, or the blindness of drawing in “The End of the Tether” and Lord Jim'と題して、通常視覚的印象主義ばかりが論じられるコンラッドの物語に登場する「亡者」に注目して、コンラッドにおいて、現実が視覚的あるいは絵画的に統合されるのではなく、「思考」のなかで「素描」としてとらえられるさまを検証した。オンラインにて開催された国際学会にて2度採択課題に関連する研究成果を発表したことで、コンラッドと同じく「見せる」美学を宣言しながら、最終的には可視的な事物の写実的表現を超えようとした画家クレーの美学を参照点とする本研究の、コンラッドの思弁的唯物論者的側面を明らかにするという課題が残されていることが明らかになった。また、これら二つの研究を進めるうえ得た知見を幻戯書房から出版したコンラッドの最後の長編小説『放浪者あるいは海賊ペロル』の翻訳と解題の執筆に活かすことができた。クレーの素描の技法を参照点としてコンラッド晩年の物語技法を考察する章を含めてコンラッドと芸術について書籍化に向け加筆修正を進めている。これまでの国際学会での研究発表や論文・著書発表をきっかけに海外ジャーナルの審査員や、本採択課題と共通のテーマの論集で、英国で出版された友人の共著の書評の依頼を受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
コンラッドとクレーの芸術論を研究するうちに、絵画だけでなく、音楽その他の芸術にも考えを広げ、深めることができたが、そこからさらに、政治小説『西欧の眼の下に』で物語の設定として用いられている「翻訳」を、「小さな芸術」としての「翻訳」という観点から考察する新たな視点を得ることができた。つまり、これまで不可視の存在とされてきた「翻訳者」を物語の語り手として見直し、翻訳された物語を、作者との直接の対話と考えずに、創造的な「翻訳者」に介在された芸術として見直す、という視点である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で採択課題に関連する国際会議はほとんどがオンライン開催となり、出張費・旅費が生じなかった。また、国内での学会・セミナー等には個人の研究費をあてた。このため、本年度まで毎年旅費として使用せずに経費を繰り越ししていた。本採択課題最終年度となる今年はオンラインでの文学関連のイベント参加および調査・資料収集のための旅行・渡航で使用する予定である。
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Remarks |
本サイトは、採択課題の副産物である翻訳作品『放浪者あるいは海賊ペロル』を、本採択課題研究代表者のこれまでの研究成果、およびコンラッド研究の動向の中で位置づけ、コンラッドを英国の作家としてのみならず、世界文学の作家として考えようとする試みである。
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Research Products
(5 results)