2023 Fiscal Year Research-status Report
'To Make You See': The Concrete in Joseph Conrad and Paul Klee
Project/Area Number |
19K00451
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ジョウゼフ・コンラッド / 歴史 / 具象 / リアリティ / 印象主義 / 視覚芸術 / 抽象 / 個人の語り手 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンラッドが晩年の歴史小説群において、かつての印象主義的な個人的語りを離れ、一見伝統的な非個人的語りに戻ることは、想像力の枯渇による伝統的な写実への回帰と考えられてきた。しかし、晩年の作品群における「歴史」は、単純に現実の模倣としての「リアリティ」を再現しているとは言えない曖昧さを持つ。そこで本研究は、この「歴史」への回帰を、「ものの見え方」へのこだわりから解放された作者による「ものそのもの」への新たな接近の試みととらえなおし、抽象された具象形象とも言うべき新たなリアリティ創造の試みとして再評価することを目的としている。2023年度は、コンラッドの、特に晩年の歴史小説に見られる新たなリアリティのとらえ方を、国内外の他の作家を通して考察した。まず、日本では『赤の自伝』で知られるカナダの詩人かつギリシャ古典翻訳者のアン・カーソンの作品と翻訳についてのエッセイを通して論じた。カーソンの作品および翻訳論は、視覚芸術と言語芸術を横断し、「歴史」と現在の間を行き来しながら、作者と翻訳者という二項対立をも切り崩しながら、ミメーシスの伝統の枠内では考えられない新たなリアリティを生み出そうとするもので、本採択課題が画家のクレーの同じくミメーシスの枠内では説明しがたい「リアリティ」を再考する上で非常に示唆に富むものであった。これらの考察の過程で、コンラッドにおいても重要な「翻訳(可能性)」の問題を取り上げることになり、日本におけるコンラッド翻訳の歴史を通覧する論考と、日本の作家夏目漱石に対するコンラッドの影響を跡付ける論考をコンラッド没後100年を記念するアンソロジーに寄稿した。2022年にはコンラッド晩年の歴史小説The Roverを日本語『放浪者あるいは海賊ペロル』に訳した。この翻訳を含む日本におけるコンラッド作品の翻訳の受容についてまとめたエッセイを英国の研究者の退官記念論集に寄せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初クレーの抽象・具象の実践と理論を通してコンラッド晩年の「新たなリアリティ」の感覚を考察しようとしていたが、コンラッド没後100年を記念するアンソロジーの複数の企画に参加する過程で、アン・カーソンや夏目漱石など、クレー以外の芸術家も考察の射程内におさめつつ、「リアリティ」「歴史」「ミメーシス」について考察を深めることができた。ミメーシスに対してコンラッドと同じ問題意識を持つと考えられる、コンラッドと同時代あるいは現代の国内外の芸術家とコンラッドの影響関係を跡付ける方向に研究が広がった。
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Strategy for Future Research Activity |
カナダの作家アン・カーソン、そして、夏目漱石とコンラッドの影響関係を考察したことによって、その延長線上で、複数の言語と文化の間を往来するコンラッドの芸術における翻訳不可能性、つまり、(ことばではなく)「沈黙」の問題を視野に入れることになった。翻訳(不)可能性の問題は、今後翻訳研究の言う「翻訳の倫理」の問題としてすでに一つの論文にまとめたが、引き続き翻訳を「芸術」、つまり創造的な行為とみなし、言語の置き換えにとどまらない、他者への応答の問題として考えていく予定である。、
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Causes of Carryover |
6月末から7月はじめにかけて、英国サセックス大学にて開催のニコラス・ロイルの退官記念シンポジウムで当初対面で発表を行い、現地調査をはさんでから英国コンラッド協会の国際大会で発表を行う予定だったが、サセックス大学でのシンポジウムにオンラインで参加できることになったので、オンライン参加に切り替えた。それに伴い、英国コンラッド学会での発表原稿をコンラッド没後100年記念論集に寄稿することになったので、コンラッド学会自体への参加も取りやめ、渡英をしなかったので、その分の旅費が未使用になったため。
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