2020 Fiscal Year Research-status Report
Representations of the Irish Famine in Nineteenth-Century Fiction and Non-Fiction
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19K00454
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
中村 哲子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (20237415)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アイルランド / 飢饉 / 19世紀 / 小説 / 旅行記 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、1746年および1747年に書かれた飢饉言説の分析・検討を中心に展開した。ひとつの軸として、1746年から雑誌連載が開始され、翌年春に単行本として出版された小説であるウィリアム・カールトンの『黒い預言者』を据え、いわゆる大飢饉が始まる以前のアイルランドを踏まえて描かれた飢饉の表象について取り組んだ。この分析が大飢饉後に書かれたテクストへの視座を確かなものにすると考えている。カールトンは、1817年のアイルランドでの飢饉の実態を踏まえて本小説を執筆しているが、アイルランドの貧困をめぐる言説は、18世紀の最後の四半世紀に書かれた旅行記にすでに見られるものであり、19世紀に入って小説にも登場する。この系統的な言説と新規の飢餓言説との関連性について考察を進めた。 もう一方で、『黒い預言者』刊行の1747年春以降においては、フィクションとノンフィクションの両者において、目の前で展開される大飢饉の実態が描かれるようになる。ホア夫人による物語やG・F・ボイル、A・ニコルソン、J・トゥークのノンフィクションの言説について検討する中で、アイルランド南西部や北西部の地域性を積極的に読み込む必要性を認識するにいたっている。こうした地域性が、大飢饉後のガイドブックや旅行記における注目地域と関連がある可能性を認識し始めている。 なお、国際的に必ずしも流通網に問題がないわけではなかったが、可能な範囲で前年に入手できなかった鍵となる文献を入手するなど、研究環境を整えることにも努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、本来、1840年代後半の大飢饉関連言説を踏まえて、カールトン、ボイル、ニコルソン、トゥークらのテクストをより丁寧に読み解くことを計画していた。また、2019年度に入手できなかったトロロープの著作への取り組みも予定していた。しかし、特に年度の前半は、十分な時間を取って考察を進める環境が得られず、2020年度の研究として、方向性を見極めることはできたが、より綿密な考察を展開する必要性を認識しており、2021年度でも継続的に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度で十分ではなかった分析・検討を進め、議論を補強・洗練し、研究成果の一部を発表する機会を得る方向で準備を進める。1817年の飢饉に関わるより具体的な言説と1846年から1849年にかけてのテクストとの関係性をより明確にすることには意義があると思われ、この点についての考察を推進する。また、飢饉を描くテクストと1850年代前半の飢饉後の言説との関連性へのより明確な視座を得られるように研究を進める。2022年度において、1850年代半ば以降の飢饉言説を分析・考察する計画で進めていく。
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Causes of Carryover |
2020年度においては、研究推進への十分な環境を得ることがむずかしい状況となり、アイルランドでの研究実施もかなわなかったため、基本的にテクスト分析・考察を可能な範囲で展開するに留まった。結果的に助成金の使用が限られたものとなり、今後、社会情勢を注視しつつ、文献等の入手とともに、可能な時期に必要な要件において助成金を使用することも踏まえて、研究推進に有効に使用していくこととする。
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