2019 Fiscal Year Research-status Report
トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究
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19K00458
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
森 あおい 明治学院大学, 国際学部, 教授 (50299286)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トニ・モリスン / アメリカ文学 / 人種 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は研究初年度に当たり、研究課題である「トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究」の研究基盤を整備するための準備を進めた。特に、2016年以降、プリンストン大学ファイアストン図書館で閲覧可能となった、モリスンの未刊行の資料、Toni Morrison Papersに収められている、モリスンが企画から関わったルーヴル博物館での特別展「外国人の家」の記録の分析を中心に研究を進め、主流社会から排除された他者表象を再考し、暴力に抵抗する、多様性を重視したアメリカ文学・文化研究の基盤を整えた。 夏季休暇中には、米国プリンストン大学ファイアストン図書館に赴き約3週間にわたり、Toni Morrison Papersの調査を行った。Toni Morrison Papersは、2014年にプリンストン大学がモリスンから譲り受けた、モリスンの講演や小説の原稿、執筆のための資料、手紙や写真、オーディオ資料等から成り立ち、全部で300箱以上のファイルケース等に収められている膨大な量の資料で、今回の滞在で調査できたのはほんのわずかではあるが、研究を進める上で大変貴重な情報を得ることができた。 本研究テーマの中心作家であるトニ・モリスンが、2019年8月6日に亡くなったため、研究計画に一部変更が生じているが、4年間の研究課題の内容には大きな影響はない。また、コロナウィルス感染症拡大の影響もあり、国際交流を通した研究の実施は当分望めない状態ではあるが、研究計画を見直して、現在できる課題に取り組んでいきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年6月には、研究の枠組みの確認の意味も含めて、立命館大学で開催された黒人研究学会第65回年次大会で「9/11アメリカ同時多発テロ以降のトニ・モリスンの外国人(他者)へのまなざし」というタイトルで研究発表を行い、モリスンが示す「外国人」(他者)への「視線」の多文化的な意味について、他の研究者との意見交換の機会を得た。 8月には研究計画に従い、プリンストン大学ファイアストン図書館でToni Morrison Papersに収められている資料を検証した。当初の予定では、特別展「外国人の家」を企画する契機となった原稿を中心に調査する予定であったが、モリスンの訃報を受け研究の対象を広げ、モリスンの出身地ロレインに関する資料の調査も行った。特に、雑誌『ユリイカ』(青土社発行)10月号で組まれたトニ・モリスンの特集への寄稿を依頼されたため、同企画の趣旨に沿って、ロレインを舞台に展開される第一作『青い眼が欲しい』を「ホワイトネス」の視点から読み解いた。その成果は「『青い眼がほしい』再読――時空を超えて甦るある少女の物語」というタイトルで同誌に掲載されている。 また、プリンストン大学ファイアストン図書館では、アメリカにおける女性選挙権獲得運動から排除された黒人女性の活動家の存在を明らかにするために、モリスンの政治的言説を調査した。アメリカで女性選挙権が1920年に認められてから100年が経つが、この運動が白人中流階級の女性中心であったことに対する批判をモリスンのフェミニズムに立脚した視点から分析した。この調査を元に、2019年10月に熊本県立大学で開催された日本英文学会九州支部第72回大会シンポジウム、「女性と文学を政治と法から考える――アメリカ女性参政権承認から100年を期に」おいて、「フェミニズム運動の歴史とトニ・モリスンから考えるジェンダーと人種」を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究計画では、夏季休暇中に再び Toni Morrison Papers を調査するために、プリンストン大学ファイアストン図書館で資料を収集する予定であるが、コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、渡米の可能性は非常に低くなっている。渡米できない場合は、2019年度2月に出版されたモリスンの論集、The Source of Self Regard(『自尊心(自己肯定)の源泉』(2019)に収められているエッセイの中から、他者の存在を象徴的に示す「外国人」に触れているものを取り上げ、検証していく。 また、コロナウィルス感染症拡大の影響で、2020年6月に明治学院大学白金キャンパスで開催予定であった黒人研究学会第66回大会が延期・中止となった。同大会では、「帰郷と帰属―モリソン追悼」をテーマに、米国トニ・モリスン学会創設者であるジョージア大学教授キャロリン・デナード氏、また本研究計画書でも取り上げているモリスンのドキュメンタリー映画『外国人の家』(2017, The Foreigner’s Home)の制作・監督に携わった米国オバリン大学のリアン・ブラウン准教授、ジェフリー・ピングリー教授を招聘して、研究に関する助言を受け、また、日本の研究者も交えてアフリカン・アメリカンの文化・文学研究に関する意見交換の場を設ける予定であったが、今年度は実現できなくなった。先行き不透明な状況ではあるが、本研究課題の最終年度までに新たな機会を設けることとし、今年度は国内でも実施できる研究に焦点を当てて研究を進めていく予定である。
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