2020 Fiscal Year Research-status Report
トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究
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19K00458
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
森 あおい 明治学院大学, 国際学部, 教授 (50299286)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トニ・モリスン / アメリカ文学 / 人種 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、研究2年目となり、研究課題である「トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究」に関連して、具体的な事例を分析することを目標とした。特に、プリンスストン大学ファイアストン図書館のToni Morrison Papersに収められた「外国人の家」の講演の文字化された資料を元に、「外国人の家」に関するテーマを整理して、既存の二項対立的な価値観を書き換える文学・文化表象を読み解き、さらに文学領域を越えた博物館という空間で展開される芸術の可能性を明らかにすることを目指した。 2020年度の研究内容の詳細については、「現在までの進捗状況」で述べるが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響もあり、対面の国際交流を通した研究の実施は残念ながら望めない状況にあった。また、出席を予定していた学会(黒人研究学会、日本英文学会、日本アメリカ文学会、Toni Morrison Society等)も対面での開催は中止となり、他の研究者との意見交換の機会が減少した。しかし、少しずつオンラインによる学会が開催されるようになっているので、今年度はオンライン学会にも積極的に参加し、また調査の手段についても、海外のデータベースの活用も含めて、新たな方法を模索していきたいと考えている。 今年度も新型コロナウィルス感染症拡大の問題が収束する兆しは見えておらず、海外の施設での文献調査や、海外の研究協力者との対面での意見交換も難しい状況にある一方で、Zoom等を使用したオンライン会議のツールも充実してきているので、今年度は方法に関しては代替措置が必要になるとは思われるが、できるだけ研究計画に従って課題に取り組んでいきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度はコロナウィルス感染症拡大の影響もあり、研究の予定が大幅に変更となった。まず2020年夏休みに予定していたプリンストン大学での研究調査の中止を余儀なくされた。また、2020年6月に開催予定だった黒人研究学会年次大会が中止となり、基調講演を依頼していたモリスンのドキュメンタリーフィルム,『外国人の家』(The Foreigner’s Home, 2018)の制作者でオバリン大学准教授Rian Brown氏と同大学教授Geoff Pingree氏の招聘も実現せず、予定していた意見交換も延期となった。これらの研究者との意見交換の機会は、研究期間中にぜひ実現したいと考えている。 なお、2020年度の研究業績は以下のとおりである。2020年12月には、明治学院大学国際学部付属研究所主催のオンライン・フォーラムで「トニ・モリスン(1931-2019)の「他者」へのまなざし」というタイトルで研究発表を行い、主流社会によって周縁化され、見えない存在とされている「他者」の存在をモリスンが回復する過程を発表した。 また、「トニ・モリスン―次世代へのメッセージ」というタイトルの論考を執筆した。本論では、昨今SNSを中心として急速にグローバルに広まったアフリカ系アメリカ人に向けられる暴力に抗議するブラック・ライブズ・マター運動の根幹にあるアメリカ史における白人優位性と暴力性をモリスンは文学を通して再現していることを指摘した。特にモリスンのエッセイ集『他者の起源』(2016)を基に、異質な存在を排除するのではなく、他者との連帯を促し、共生していくことの重要性をモリスンが指摘していることを論じた。本論文は、2021年夏には明石書店より出版される『アメリカを知るための新63章』(仮題)に収録される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ルーヴル博物館での特別展「外国人の家」の講演でトニ・モリスンが言及した、ニューヨークのメトロポリタン美術館で、アロン・ショナーが企画した特別展、”Harlem on My Mind” (1969)を取り上げ、考察を深める。この特別展は、公民権運動によってもたらされた社会変化に応じて、1920年代のハーレムルネサンスの歴史を再現しようとする企画ではあったが、人種化された展示となっていることをモリスンは批判している。モリスンの講演原稿を元に、この企画の問題点を、同特別展の目録とも言えるショナーのHarlem on My Mind (1969, 1995)や、昨今の博物館のあり方を問う論文を収録したMuseum Studies (2012)等を参照しながら検証し、抑圧から解放される空間としての博物館の可能性を考察する。 本来ならば、夏季休暇中にプリンストン大学ファイアストン図書館に所蔵されている関連資料を収集する予定であったが、コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、渡米の可能性は非常に低くなっている。渡米できない場合は、国内での文献解題が中心となるが、本年度、新たにモリスン関連の研究書(Susan Neal MayberryのThe Critical Life of Toni Morrison: Making a Home in the Rock,Camden House 2021年7月出版予定他) の出版が予定されており、これらの資料も含めて検証していく。 今年度は対面の学会参加は難しいと思われるが、オンラインによる学会出席や発表も視野にいれて研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて、海外(アメリカ合衆国プリンストン大学)での研究調査を実施することができなくなったため、差額が生じた。海外渡航が可能になり次第、当初予定していた現地調査を実施する予定である。
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