2021 Fiscal Year Research-status Report
トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究
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19K00458
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
森 あおい 明治学院大学, 国際学部, 教授 (50299286)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トニ・モリスン / 人種 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は当該研究3年目となり、研究課題である「トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究」に関して、モリスンのドキュメンタリー・フィルム『外国人の家』(The Foreigner’s Home)等のメディア分析も踏まえて、文学を越えた空間における価値観の転換の可能性を考察することを目指した。 しかしながら、2021年度も新型コロナウィルス感染症の影響で、現地調査や対面の国際交流を通した研究は実施できなかった。特に当該研究の研究対象である、プリンストン大学ファイアストン図書館所蔵のトニ・モリスン・ペーパーズの調査に赴くことができなかったことは大きな痛手であった。 したがって、2021年度の研究では、トニ・モリスン・ペーパーズに関して新たな資料の追加はないが、主に当該研究1年目に同図書館で行ったリサーチや、他の文献・メディア資料に基づいて論文を執筆した。研究成果の詳細については、【現在までの進捗状況】を参照されたい。 海外でのリサーチが制限される一方で、オンラインで海外の学会に出席する機会が増えた。所属するトニ・モリスン学会では、2022年3月には"The Bluest Eye, Book Banning, and the Politics of Censorship"(「『青い眼がほしい』、禁書、検閲の政治性」)というタイトルで討論会が開催され、日本から参加することができた。またオンライン上で視聴できるモリスンのインタビューやシンポジウム等も増えており、予期しなかった形で資料検索の可能性が広がってきている。今年度もプリンストン大学での資料調査が難しい場合は、オンライン資料も含めて新たな研究方法を模索していきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020度に引き続きコロナウィルス感染症拡大の影響もあり、研究の予定が大幅に変更となった。まず、2021年夏休みに予定していたプリンストン大学での研究調査の中止を余儀なくされた。同大学での資料収集は滞っているが、これまでのリサーチの結果を踏まえて、以下の論文を執筆した。 まず、「トニ・モリスンの『ジャズ』と「私の心のハーレム」を中心に見る自己表象と芸術性の探究」というタイトルの論文を執筆した。同論文は、『ハーレム・ルネサンス 〈ニュー・ニグロ〉の文化社会批評』(明石書店 2021)に収録されている。この論文では、フランスのルーブル博物館で開催された特別展「外国人の家」の基調講演(2006)でモリスンが言及している、ニューヨークのメトロポリタン美術館におけるアロン・ショナー企画の特別展、”Harlem on My Mind”(1969)を取り上げた。この特別展で、ショナーは公民権運動によってもたらされた社会変化に応じて、1920年代のハーレム・ルネサンスの歴史を再現しようと試みたが、結果的に人種化された展示となっていることをモリスンは批判しており、その批判の背景にある社会的・政治的・歴史的・文化的要因を考察した。 また、『現代アメリカ社会を知るための63章』(明石書店 2021)の編集委員会から、トニ・モリスンに関する原稿の執筆を依頼され、「トニ・モリスン――次世代へのメッセージ」を著わした。プリンストン大学で入手した資料を元に、モリスンの「他者」に向けられる視線を分析した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究着手時の予定では、研究の総括として所属する黒人研究学会等で、海外のモリスン研究者を招聘して、国際シンポジウムを開催し、内外の研究者と意見交換を行う予定でいたが、残念ながら現時点ではまったく見通しが立っていない。さらに相変わらず、海外での研究調査や、国際学会出席のための出張は実施困難な状況ではあるが、少しずつ国内の学会活動はオンラインも含めて活発化している。2022年4月には、日本アメリカ文学会中部支部年次大会(オンライン開催)で、「文学・アートを通して語り続けるトニ・モリスン」というタイトルの研究発表を行い、モリスンの言説を踏まえ、沈黙を強いられ「他者化」された存在にとって、アートが主体性を回復するために重要な役割を果たすことを論じた。 また10月に開催される所属学会のワークショップに「トニ・モリスン再読;分断の時代のレジリエンス」(仮題)というテーマで参加の申請を行っている。ワークショップでは、これまでの研究成果を踏まえて、政治、階級、ジェンダー、人種等の違いを理由とした分断が加速する現代社会において、苦境に立ち向かうレジリアンスの可能性がモリスンの言説には内包されていることを論じる予定である。また、ワークショップには他のモリスン研究者にも参加を呼びかけ、事前準備等でモリスン研究に関する意見交換を行いたいと考えている。 これらの学会発表での意見交換や質疑応答を踏まえて、発表原稿に加筆修正を施し、学会誌への投稿を目指し、研究成果の公表ができるように準備を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当該年度は、プリンストン大学図書館での調査、また所属するModern Language Association等の学会での研究発表のための渡航を計画していたが、コロナウィルス感染症拡大により、外務省感染症危険レベル2以上の国への出張が大学の方針として認められなかったため、計上していた外国旅費を使うことができなかった。また国内の学会もオンライン開催となり、外国・国内ともに旅費を次年度に繰り越すこととなった。
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