2020 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ詩「沈滞」期の詩人たち─アメリカン・ルネサンスとモダニズムの間隙再構築
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19K00459
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
澤入 要仁 立教大学, 文学部, 教授 (20261539)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スティーヴン・クレイン / ジャック・ロンドン / アメリカ・ロマン主義 / モダニズム / アメリカ詩 / アメリカ文学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、もっぱら小説家として知られるスティーヴン・クレインとジャック・ロンドンの詩作を中心にして研究を進めた。その結果、両者はほぼ同時期に詩を書いていたにもかかわらず、その作品はきわめて対照的であることがわかった。 すなわち、クレインの詩作はほぼ自由詩であり、イマジズムのような鮮烈なイメージを使っていた。他方、ロンドンは、ソネットや普通律など伝統的な形式を利用していた。ただしその内容は自由奔放であって、性的な恋愛詩や社会主義思想詩も含まれていた。アメリカ詩史におけるロマン主義とモダニズムの間隙を探る、という本研究の目的を顧みれば、クレインはパウンドなどのイマジズムへ至る過渡期の詩人といえるし、ロンドンは、定型詩にこだわったロビンソンへ通じる詩人といえそうだ。 クレインの第一詩集『黒い騎手たち』(1895)のフルタイトルは、『黒い騎手たちおよびその他の行』だった。つまり、詩人は自分の「その他」の作品を「詩」と呼ばず、「行」linesと呼んでいたのである。これは詩の伝統への抵抗といっていい。のちにパウンドがモダニズムのスローガンとして「一新せよ」と表明したことを思わせる。また、第2詩集『戦争はやさし』(1899)の巻頭におかれた表題作は、自由詩とはいえ、[ai]の音を散りばめるという入念な工夫がほどこされていた。これものちにパウンドらが従来の韻律ではない新しいリズムを求めたことに相当する。 ロンドンの詩はたしかに稚拙だ。勉強して学んだ詩型を試そうと書きつづった習作のようにもみえる。しかし、クロンダイク・ゴールドラッシュに参じる直前に書いた未刊の詩「ゴールド」では、欲望が導く破滅の可能性をうたうなど、彼の短篇小説と通底する内容を示していた。散文を使って書く主題をあえて定型詩の中にも収めようとしたこと自体、詩という形式が19世紀末になっても連綿と生きていたことの証左といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度までの進捗状況は「やや遅れている」と評価した。昨年度までは「おおむね順調に進展している」であったが、本年度の遅れが、全体の進捗状況に影響を与えてしまった。 本研究の主たる方法のひとつは、アメリカの図書館へ出張して、文献を博捜調査するというアーカイヴァル・ワークであった。しかし本年度は世界的な感染症拡大により、一度も出張することができなかった。そのため、日本の図書館に架蔵されている書籍やオンライン・データベースを使った研究に限られてしまった。 当初の計画では、本年度、米西戦争をめぐる大衆詩の流行や、全米各地の労働運動でうたわれた詩をアメリカの図書館で調査する予定だった。文学史では取りあげられていない作品を発掘する計画だった。けれども本年度は残念ながらそのような作業が不可能だったので、クレインとロンドンという、小説家としてはcanonicalな作家の詩作を取りあげ、研究することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は南北戦争期のメルヴィルの戦争詩を中心に調査した。本年度は、南北戦争を題材にした小説『赤い武功章』で知られるクレインの詩作を研究の対象に含めた。その流れを加速して継続させるためにも、当初の計画で示されていた米西戦争をめぐる大衆詩を研究したい。そうすることによって、アメリカ詩の「沈滞期」の実像を明らかにしたい。 また、メルヴィルもクレイン、ロンドンも、いずれも小説家としてアメリカ文学史に特筆されている作家であるが、そのような作家の詩を研究することが当初のプロジェクトの主旨ではなかった。あくまでも、ロマン主義とモダニズムの間隙の「沈滞期」とされる時代のアメリカ詩を探ることが主旨である。あらためて計画の整合性を検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
本プロジェクトの主要な手段はアメリカの図書館におけるアーカイヴァル・ワークであるため、本年度、二度のアメリカ出張を予定していたが、残念ながら一度も渡航できなかった。その結果、本年度の「旅費」が次年度使用額として残ってしまった。 次年度は、プロジェクトを遂行するため、感染症の状況を把握しながら、海外出張を実現したい。
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