2019 Fiscal Year Research-status Report
20世紀後半のアメリカ文学・文化におけるトラウマとしての奴隷制度の表象
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19K00460
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
和氣 一成 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (10614969)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Sankofa / Postmodernism / Trauma / Slavery / Afrofuturism / Dark tourism / Memory / Haile Gerima |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで研究を重ねてきた「20世紀アメリカ文学におけるトラウマとしての奴隷制度の表象」というテーマのもと,引き続き文学作品を主な分析対象としてきたが、 さらに「黒人の主体形成におけるトラウマとしての奴隷制度の問題」の映画作品中の表象として特化し、Haile Gerimaの映画Sankofa (1993)を分析した。いわゆる“Dark tourism”を中心テーマに据えた本映画では、主人公Monaが奴隷としての自分たちの祖先の記憶/歴史の断片に触れることにより、自らの出自について確固たる歴史意識を持った女性へと変貌を遂げる。その変容を社会・歴史的な文脈から分析することで、文学研究と文化研究というより多角的な研究を心がけた。本作品が史実のGhanaからアメリカへの奴隷貿易という歴史を扱っている点を中心として分析し、同様に奴隷制度の歴史をたどる “slavery tourism”や “heritage tourism”などの流行との関連性を検証した。 その結果、Sankofaという作品分析においては、Octavia ButlerらのSF文学作品分析といった研究と同時に、Mark Deryにより定義づけられたアフロ・フューチャリズム(思想史的にはAndré M. CarringtonのSpeculative Blackness: The Future of Race in Science Fiction [2016]などの研究書を補助線として)というより大きな枠組みの中で"Dark tourism"を捉える方向を目指した。具体的には、“Spirit of the Dead, Rise up!”―Rewriting the Slavery History through the Palimpsest Historiography in Sankofa―という論文を『学術研究』(人文科学・社会科学編, 2019) に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
“Dark tourism”を中心テーマに据えた本映画をOctavia ButlerらのSF文学作品分析といった研究と、同様に奴隷制度の歴史をたどる “slavery tourism”や “heritage tourism”などの事象の研究、さらにはアフロ・フューチャリズム、特に網羅的な研究としてAndré M. CarringtonのSpeculative Blackness: The Future of Race in Science Fiction (2016)という思想的研究と接続することにより、より大きな枠組みの中で分析するという視点を構築した。 「研究概要の実績」でも挙げた通り、本研究を論文にまとめあげ、"Dark tourism"やトラウマ研究と奴隷制度の問題の研究に貢献したと考える。2019年8月のNational Great Blacks in Wax Museum、Reginald Lewis Museumでの資料調査では貴重な資料に触れることができたが、今後の研究を進めていくうえでに欠かせない重要な調査だった。2020年度にはこうした資料から読み取れる奴隷制度廃止後の影響についてAlice WalkerのMeridian (1976)を元に研究を続け、論文を作成していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度においては、Alice WalkerのMeridian (1976)を研究対象としていく。以下の3点を中心に研究を遂行し、本研究をより深めていきたい。1)本作品には一見無関係に思われる断片的な逸話が挿入され、全体として統一を欠いていると批評家たちにみなされてきたが、むしろその断片化された記憶/歴史の痕跡の中にこそ、普遍化され、都合よく歴史的に解釈されてしまうことを拒む複数のトラウマ的記憶、転覆的な可能性を潜在させ胚胎していると捉え直す。2)国内の学会において発表する(コロナ禍の状況による) 3)研究成果を論文として発表する
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Causes of Carryover |
令和元年に行った海外出張が、他業務、および出張と時期が重複したことから、調査期間を短縮せざるを得なかった。以上の理由から未使用額が発生した。
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Research Products
(4 results)