2022 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀後半のアメリカ文学・文化におけるトラウマとしての奴隷制度の表象
Project/Area Number |
19K00460
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
和氣 一成 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (10614969)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トラウマ / 奴隷制度 / August Wilson / melancholy / 憑在論 |
Outline of Annual Research Achievements |
論文名"Melancholic Hope: A Study of the Echo of Slavery in the Works of August Wilson" 2023.3早稲田大学『学術研究』第71号.本研究では、August Wilsonの代表的な諸作品を分析対象として、「過去」がいかに各登場人物の記憶の中で不快な形象となって「現在」という時間に反復的に回帰し続けているかを検証した。本研究の理論枠はJoseph R. WintersのHope Draped in Black(2016)であり、Wintersは一見unproductiveなものとして考えられてきたmelancholyがhopeをも生み出す可能性があることを理論化する。この準拠枠に基づき、各登場人物の抱えるトラウマ的経験とその歪曲化された記憶は、各人の個別の経験・記憶にのみ起因するものではなく、祖先の集合的記憶と苦難の経験にも起因することを検証した。Wilson作品におけるmelancholyは単に過去に囚われるという悲観的なものではなく、新たなる未来への希望や可能性をも内包したものである点を検証した。 研究期間全体を通じて、20世紀終わりにもアメリカ国家の主体形成において根深く大きな影響を与え続け、姿を変えながら反復的に回帰し続けてたトラウマとしての奴隷制度の表象について研究を行った。従来の研究では十分に分析されてこなかったアメリカ国家にとってのトラウマとしての奴隷制度という集合的(トラウマという)記憶を分析するという研究の目的は達成された。 今後の課題として、新奴隷体験記において描かれる「奴隷制度のトラウマ」の概念/表象を、トラウマ理論、憑在論、ポストコロニアリズムのという観点から統合的に照射することで、その歴史認識がどのように表象されているかを解き明かす必要があることが見いだされた。
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