2023 Fiscal Year Annual Research Report
「死者との対話」-ケルト文化から見たH.ブロッホ『誘惑者』の文学と政治
Project/Area Number |
19K00468
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (10168346)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヘルマン・ブロッホ / 『誘惑者』 / 神話 / ケルト文化 / 地上における絶対的なもの / ナチズム / E.トレルチ / E.ブロッホ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題『「死者との対話」-ケルト文化から見たH.ブロッホ『誘惑者』の文学と政治』は、次の二点を解明することを目指した。1)『誘惑者』(1935-36)におけるケルト文化の役割を明らかにし、ブロッホにおける「死者との対話」の意義を解明し、その上で、H.ブロッホの著作全体における神話・神秘主義の意義を解明する。同時に、2)文学作品に描かれる政治的要素が作品構造の中でいかに扱われるべきかを、両者が明瞭に描かれている作品『誘惑者』分析において考察する。 本研究はCovid-19の世界的蔓延のために2年間の延長を強いられたが、所期の研究成果を概ね得ることができた。ケルト文化と神話・宗教、ブロッホがこの作品と並んで構想・執筆していた「群衆狂気論」(未完)との密接な関係、とりわけ人間が「神の似姿」であるが故に人間を超えた絶対者(神)に由来する「地上における絶対的なもの」がこの世界に存在し、それがとりもなおさず「人権」と「人間の尊厳」であるとしたブロッホの思想を解明した。さらに同時代のE.トレルチとE.ブロッホBlochが「自然法」を絶対的価値として人権を根拠づけようとした点においてH.ブロッホの法思想と軌を一にすることを明らかにすることができた。当初はオーストリアの法学者H.ケルゼンの思想との関連を予想していたが、実証するに至らなかった。 最終年度においてはブロッホの「神話」概念を明らかにし、H.ブロッホの未完に終わった小説『誘惑者』がケルト文化を背景とし、宗教と神話の復活という彼の思想を、ナチズムのそれとは一線を画しつつ作品化しており、作品最後に描かれる、殺害された孫イルムガルトと祖母「ギソン母さん」との対話において触れられる自然との共生というヴィジョンがブロッホ思想の最終地点であったであろうことを明らかにした。 令和5年3月に国際シンポジウムを開催し、上記の研究成果を発表した。
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