2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00474
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 浩則 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (00219445)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | エクリチュール / 官能性 / 書簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型コロナの感染の影響で、フランスに資料の収集に行くことはかなわず、科研費を使っての研究はできなかったが、2020年3月に科研費の援助を受けてフランスを訪れた際に収集した資料をもとに研究を進めることができた。 まず、日本ヴァレリー研究所の求めに応じて、研究所のサイトに「ラ・グローレ訪問記」を寄稿した。ラ・グローレとはヴァレリーと親密な関係にあったカトリーヌ・ポッジの家が以前所有していた広大な別荘であるが、ヴァレリーとカトリーヌはちょうど100年前の1920年秋にここで結ばれていた。いわばヴァレリー研究の聖地とも考えられている地であるが、これまで日本人研究者どころかフランス人研究者も足を踏み入れたことはなかった。私は現所有者の好意でラ・グローレを訪れ、ヴァレリーとカトリーヌの作品や日記に登場するこの地に関する記述を分析しつつ、この地の成立から現在までの経緯をたどった。ヴァレリー研究者によるラ・グローレに関する研究は日本ばかりでなく、本国フランスでも存在しないため、この「訪問記」は論文の形式をとってはいないが、大いに資料としての価値があるものと思われる。 また、2021年3月に刊行された神戸大学文学部の『紀要』(48号、pp.23-60)に論文「ヴァレリーあるいは1922年春の危機 ー 伝記研究とテクスト分析のはざまで」を書いた。これも、ヴァレリーとカトリーヌ・ポッジとの関係を互いの作品と日記の分析から追った研究であるが、これまで知られていなかった二人の側面を明らかにした。さらに、この論文では、ヴァレリーがルネ・ド・ブリモン男爵夫人に書いた手紙2通を分析対象に加えている。これらの手紙はこれまで研究論文のレベルで使われたことは世界で一度もないはずで、ヴァレリー研究に与えるインパクトは小さくないはずである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの感染のため、2020年度はフランスでの資料の収集できなかったが、すでに取得済みの資料の読みの精度と深度を推し進めることによって、研究を進めることができた。とりわけ、上述したように、ヴァレリーとカトリーヌの聖地ともされているラ・グローレを訪れ、それに関わる資料とラ・グローレをめぐって書かれた二人の作品を分析することができたので、研究課題に掲げた研究はかなりの程度達成できたと考えている。また、これも上述したように、ヴァレリーとカトリーヌが迎えた最大の危機を伝記研究とテクスト研究の両方の側面から分析し論文にまとめることができたので、これも大きな成果と考えている。これらの研究を通して、ヴァレリーの作品や日記「カイエ」ならびにカトリーヌの作品、とりわけ詩(ValeやAve)の関係を明確にできたので、研究課題の実現に大いに近づいたものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの感染状況次第では研究計画に若干の変更が生じる可能性があることは否定できないが、研究に必要な資料の取得状況から判断すれば、計画に大きな変更が生じるとは考えられない。研究課題を十分に達成することができるものと思われる。 今年度は本研究の最終年度にあたるので、ヴァレリーとカトリーヌのたがいの作品レベルでの「影響」や「相克」を明らかにするという観点から、カトリーヌの遺作『魂の肌』とヴァレリーの作品との「近さ」と「遠さ」を考察していく予定である。というのも、カトリーヌはヴァレリーが彼女の作品の一部を「剽窃」したと訴えているからであるが、そうした非難が根拠のあるものなのか、単なる思い込みなのかに関する議論はヴァレリー研究の中では等閑視されてきたきらいがあるからである。たがいの日記を見せ合い、修正やコメントの書き込みまで認め合った二人の知的共同作業から生まれてきた「剽窃」の問題の実態を追いながら、二人の稀有な作家のエクリチュールの面での相克を明らかにする予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延のため、研究活動に制限が生じたため。とりわけ、資料収集のため海外出張が不可能になったため。
|