2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00474
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 浩則 神戸大学, 人文学研究科, 名誉教授 (00219445)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 書簡 / エロス / 知性 / エクリチュール / 日記 |
Outline of Annual Research Achievements |
カトリーヌ・ポッジとの交流がポール・ヴァレリーにいかなる影響を与えたのかを、ヴァレリーとポッジのたがいの日記、二人の間で交わされた書簡集、残された作品の草稿などから探求した。1920年6月17日にパリで初めて会った二人であったが、それ以降の二人の交渉を探っていくことによって、すでに同年8月2日の段階で、ヴァレリーが1892年の「ジェノヴァの危機」以降堅持してきた禁欲的な精神のシステムに破綻が生じたことが確認された。そしてまさに、この破綻こそが、1892年の危機を文学化し神話化するきっかけになったことを明らかにした。この分析の過程で、従来個別に読まれていたいくつかのテクストが互いに連関しあっていることが判明した。また、1920年9月から10月にかけてヴァレリーがポッジ家の領地ラ・グローレに滞在した際に書かれたテクストの分析から、すでにヴァレリーとカトリーヌの間に乗り越えがたい障害が生じていたことを明らかにすることができた。また他方で、こうした障害にも関わらず、ヴァレリーがポッジを劇作品や散文詩といった文学作品ののなかで表現しようとしていることも指摘することができた。さらに、ヴァレリーがポッジに自らの書いた日記『カイエ』を見せたという事実をもとに、どのようにおたがいの思考の交流がなされたのかを確認した。そのためにポッジがヴァレリーの『日記』の中にどのようなメモやコメントを書き込んだのかを検証した。この検証をもとに、ポッジがヴァレリーの電磁気学や相対性理論をどうとらえているのかに最大の関心を抱いていたこと、それを彼女が自らの著作『魂の肌』(遺作)に生かそうとしていたことなどを解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のため、予定していたフランス国立図書館での資料収集をすることはできなかったが、研究助成をいただいた三年間にヴァレリーとカトリーヌ・ポッジとの関係を明らかにする重要な論文を発表することができたし、シンポジウムでの発表も行った。また、ヴァレリー研究者としてはじめてポッジ家の領地ラ・グローレを訪れ、その探訪記を日本ヴァレリー研究会のブログに掲載などした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度内にフランス国立図書館でカトリーヌ・ポッジの日記のマイクロフィルムを確認するとともに、カトリーヌの家があった南フランス・ヴァンス市の市立図書館を訪問し、カトリーヌの関連資料を収集したい。それをもとに、これまでの考察をさらに深め、論文、さらには著作(単著)として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、予定していたフランス国立図書館などでの資料収集作業ができなかった。感染状況が改善し、フランス政府も研究者の受け入れを再開し始めたので、当初提出した計画に基づいて年度内に出張し、資料収集等の作業に当たりたい。
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