2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀のケルト学の発展におけるフランスの貢献に関する研究
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19K00475
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
梁川 英俊 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (20210289)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ルナン / ケルト諸人種 / マシュー・アーノルド / ブルトン人 / W・B・イェイツ / ケルト文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の目的は、エルネスト・ルナンが1854年に発表した論考『ケルト諸人種の詩歌』を分析・検討することであった。この論考はケルト諸語圏のケルト語話者をrace(民族/人種)として一括し、その精神的・気質的特徴を探ろうとした最初の試みであり、のちにマシュー・アーノルドやW・B・イェイツに大きな影響を与え、近代における「ケルト」概念の起点となった重要な論考である。本年度は、主としてこの論考がどのような経緯から生まれ、後世にどのような影響を与えたかという点に関して分析・検討を試みた。 その結果、ルナンがケルト語話者を「ケルト諸人種」と呼んだ背景には、言語が「民族/人種」の「精髄」を形成するという彼の文献学的原則があり、またそこでケルト諸人種の「精髄」として提示されたのは、もっぱらルナンがブルトン人の精髄として想定するものであることが明らかになった。さらに、M・アーノルドの「ケルト文学の研究について」においては、ルナンが定義したケルト諸人種の「精髄」について批判的検討が加えられており、その背景にはフランス人をケルト人の一典型と考えるアーノルドの見解が大きく影響していることがわかった。またイェイツの「文学におけるケルト的要素」においては、ルナンやアーノルドの記述から大きな影響を受けながら、そこで論じられている「ケルト」概念の方は、イィエツ独自の文脈に巧みに置き換えられていることが明らかになった。 これらの研究の成果については、2019年10月に行われた日本ケルト学会研究大会のシンポジウム「フォーラム・オン」において、「エルネスト・ルナンの『ケルト諸人種の詩歌』について」と題して発表したほか、かねてより進めているルナンの論考の翻訳の完結編を同学会の機関誌『ケルティック・フォーラム』に「ケルト諸人種の詩歌(2)」と題して掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この数年来の課題であったエルネスト・ルナンの『ケルト諸人種の詩歌』の翻訳を完結させたほか、同論考に関する考察をまとめて研究発表を行い、それがM・アーノルドやW・B・イェイツのテクストに与えた影響についても、納得のいく結論を出すことができた。当初の予定を十分にクリアしており、本研究課題についてはおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に日本ケルト学会で発表した内容については、次年度に論文としてまとめ、日本ケルト学会が刊行する予定の論集に掲載する予定である。また、同発表の内容は現在執筆中のラフカディオ・ハーン論においても改めて考察される予定である。 今後の研究における大きな懸念は、新型コロナウィルス感染症のため、当初計画していたフランスやアイルランドにおける文献調査やインタビューができなくなることであるが、その場合は、日本における文献調査等によって代替するように努めるなど、研究計画を適宜見直すつもりである。たとえば、日本においても研究が可能なラフカディオ・ハーンとケルトの関係の調査・分析に多くの時間を費やすこともひとつの選択肢であると考えている。
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Causes of Carryover |
2020年3月に予定していた日本ケルト学会東京研究会が新型コロナウイルス感染症のために延期になったため、当初の予算に残額が生じた。今年度5月に開催が予定されているので、開催されればその旅費に使用する。中止になった場合は、物品費として使用する予定である。
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