2019 Fiscal Year Research-status Report
Max Kommerell's Works and Life during the Interwar and Watimer Period
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19K00476
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
平井 守 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (30305510)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 詩論 / 抒情詩 / 震撼と情調づけ / 言語と身ぶり / リズム / 沈黙と命名 / 民族 / 読者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、マックス・コメレルの戦間期から第2次世界大戦にいたる時期における批評的、学問的業績の再検討を行うことを目的としているが、2019年度はコメレルの生前出版された最後の著作である『詩についての諸想』の冒頭の位置におさめられた論考である「抒情詩の本質について」の読解と分析をおこない、次の点を明らかにした。コメレルにとって「言語の身ぶり」としての詩的発話は、「初めてのもの言い」であり、それは「沈黙」と、「リズム」としての「命名」である。その際に「魂」と「世界」とが「震撼」と「情調づけ」のはたらきによって相互に関係をむすび、「他者」における「自己認識」が成立する。とはいえ、コメレルにおいて同時にそれは「世界」へと開かれたものである。コメレルの「抒情詩の本質について」は、批評家あるいは学者という以前に、みずからも詩作を試み、数冊の詩集を上梓してもいる「詩的な人間」による「抒情詩の本質」をめぐる探求の試みであると言ったほうがふさわしい。しかし、それは、たんなる詩的なエッセイなどではなく、厳密な論理性と歴史性に対する意識とに貫かれている。また表面上はぬぐい去られているかに見える同時代の趨勢に対するコメレルの批判も、ナチス体制下の文学あるいは文学研究をめぐる危機意識として、かすかに暗示されている。また、この論考を背後で照らすいくつかの光源として、ゲオルゲと彼のサークルにおける「秘められたドイツ」の理念、ホーフマンスタールのエッセイ「詩についての対話」における象徴理論、ゲーテの自然研究における岩石生成理論、ハイデッガーの講演「芸術作品の起源」における言語哲学などの存在を明らかにした。また、コメレルに対する、ベンヤミン、ガダマーならびにアガンベンらの批評的言説をとりあげた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、マックス・コメレルの戦間期から第2次世界大戦にいたる時期における批評的、学問的業績の再検討と、伝記的研究を行うことを、二つの柱としている。批評的、学問的業績の再検討としては、2019年度は、「抒情詩の本質について」の読解と分析をおこない、また、コメレルの詩論への、ゲーテ、ゲオルゲ、ホーフマンスタール、ハイデッガーらの影響を指摘し、そのさしあたっての成果を、論文「コメレルの詩論(1)―抒情詩の本質について―」(愛知県立大学大学院国際文化研究科論集第21号所収)においてまとめた。いっぽう、コメレルの伝記的研究としては、2019年度は、Briefe und Aufzeichnungen 1919-1944 (hrsg. von Inge Jens)として公刊されている書簡に関して、順次、読解と分析ををすすめた。資料収集としては、2019年度は、コメレルのいくつかの作品の初出媒体(雑誌、年鑑など)を古書として収集し、あるいは内外の図書館からコピーとして入手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度においては、前年度からの継続としてマックス・コメレルの詩論『詩についての諸想』の読解と分析をおこなう。また、戦間期から第2次世界大戦にいたる時期における他の主要な著作である『ジャン・パウル』と『レッシングとアリストテレス』の研究のための予備的作業を開始すると同時に、ジャン・パウルならびにレッシングそのものに関する理解を深める。いっぽうで、公刊されている書簡[Briefe und Aufzeichnungen 1919-1944 (hrsg. von Inge Jens)]の分析をひきつづきすすめ、さらにはフランクフルト大学およびマールブルク大学時代における公刊資料の収集と分析をすすめ、伝記的研究をさらに前進させる。2021年度に状況が許せば、マールバッハ・ドイツ文学アルヒーフおよびヴュルテンベルク州立図書館シュテファン・ゲオルゲ・アルヒーフでの現地調査をおこない、未公刊の書簡資料の調査と分析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
書籍購入の際の余った分。次年度の物品費の一部として使用の予定。
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