2020 Fiscal Year Research-status Report
鴎外の演劇翻訳・改作・創作に関する日独比較文体論及び文献学的詩学に基づく国際研究
Project/Area Number |
19K00481
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
井戸田 総一郎 明治大学, 文学部, 専任教授 (40095576)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 東漸新誌 / 日本最初のドイツ語雑誌 / 演劇問題について / おもかげ / 痴人と死 / ファウスト / ホーフマンスタール / ゲーテ |
Outline of Annual Research Achievements |
森鴎外が1889年1月から刊行した日本で最初の本格的ドイツ語雑誌『西から東へ』(Von West nach Ost、鴎外は『東漸新誌』と訳している)について、ドイツ東アジア研究所の機関誌 OAG Notizenに二回に渡ってドイツ語で紹介した。2018年10月に東京大学駒場図書館において、この雑誌の1号から10号までの存在が確認され、その結果、鴎外の未発見のドイツ語論文『演劇問題について』(Ueber die Theaterfrage)と『おもかげ』(Omokage)が読めるようになった。井戸田はこの二論文の翻訳と解説を「文芸研究」第138号(明治大学文学部紀要、2019年3月)を発表しているが、日本に関心のあるドイツ人読者向けに新たに紹介記事を執筆した。 鴎外の演劇翻訳について、ホーフマンスタールの『痴人と死と』及びゲーテの『ファウスト』の翻訳について、原書の韻律分析を踏まえながら、鴎外の翻訳の特性を明らかにした。これまでのカルデロン、レッシング、イプセン、シュニツラーの翻訳の分析と合わせて、一つの論文としてまとめあげた。鴎外の翻訳による『痴人と死と』は、1911年4月13日から8日間、新時代劇協会によって上演され、和辻哲郎は雑誌『スバル』に舞台批評を書いている。この劇評のなかで初めて「レシー」という言葉が使われ、それは日本演劇史において演出という考え方が登場する契機になった。ホーフマンスタールの原文はヤンブス5詩脚詩句で押韻のないブランクヴァースに傾斜し、行を跨いで意味を形成するアンジャンブマンが多く出現するが、その原文のニュアンスを伝える鴎外の散文訳のさまざま工夫を登場人物ごとに明らかにした。『ファウスト』の翻訳に際しては鴎外は詩行を強く意識しており、原文の行番号を翻訳においても記載している。ゲーテの駆使する多様な韻律の分析と鴎外訳の比較を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランクフルトの研究所 Freies Deutsches Hochstft とはこれまでの交流の実績のおかげで、コロナ禍であるにも拘わらず、インターネットを通して順調に推移している。鴎外の演劇翻訳を分析する上で重要な、ホーフマンスタール及びゲーテに関する情報を取得できる環境にある。雑誌『西から東へ』をドイツ語で紹介したことによって、東京のドイツ東アジア研究所との関係を新たに構築できた。このことは、本研究の成果を海外発信する上で、極めて有益である。
|
Strategy for Future Research Activity |
鴎外の演劇翻訳の実践について、近い将来の出版を目指して、カルデロン、レッシングの初期の翻訳について、すでに遂行した方法に基づいて、分析事例を増やす作業に着手している。中期の翻訳についても、イプセン、シュニツラーを中心に同じように分析箇所を増やすとともに、同時期に小説翻訳にも注目して、標準語を用いた翻訳実験をこのジャンルについても指摘する準備に入っている。
|
Causes of Carryover |
ヨーロッパにおけるコロナ・パンデミックの状況が悪化し、当初予定していた海外研究者の招聘が不可能になった。また、ドイツの研究所における手稿資料を含めた資料調査も遂行できなかった。手稿資料はデジタル化されておらず、現地における調査を必要とする。2021年度は状況を見ながら対応することになる。
|
Research Products
(3 results)