2021 Fiscal Year Research-status Report
鴎外の演劇翻訳・改作・創作に関する日独比較文体論及び文献学的詩学に基づく国際研究
Project/Area Number |
19K00481
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
井戸田 総一郎 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 名誉教授 (40095576)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 国際演劇年鑑 / 鴎外と舞台芸術 / 現代語 / 短剣を持ちたる女 / 山彦 / シュニツラー / ヒッペル / 鴎外研究の国際化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年は鴎外生誕160年、没後100年であり、国際演劇協会より『国際演劇年鑑』に「鴎外と舞台芸術」という表題で寄稿の依頼があり、これまでの研究成果に基づいて当該研究の重要性を一般読者向けに記述した。この論稿は国際演劇協会によって英語に翻訳され、外国の研究者や関心のある方々にも情報が広く的確に伝わるように企画されている。本研究は、鴎外研究の国際化を目指しており、この目的に合致するものである。日本語執筆にさいして英文化を強く意識して、国際的に有意義な論稿を完成した。2017年2月明治大学文学部紀要『文芸研究』に発表した論文「鴎外の演劇言語にみる近代」のなかで作成した図版「鴎外戯曲翻訳・創作の世界」を基に、修正・加筆を施し精度を高めたものを英訳し、「鴎外と演劇」というテーマが持つ学術的拡がりを国際的にアピールできるものに仕上げた。 シュニツラーの『短剣を持ちたる女』の翻訳(1907)において鴎外が「現代語」(1904年の「尋常小学読本」から普及が始まる標準語)を古語と合わせて用いる実験を行っていることは、筆者はすでに明らかにしているが、同じ試みを小説のジャンルで遂行したものとして『山彦』に関する分析に着手した。原文はHirdegard von Hippelの"Die Geschichte einer Liebe"であるが、この作者と作品はドイツの文学史に記述されていない。鴎外は1902年6月刊行の雑誌『芸文』に翻訳を掲載しているが、原文は同年4月刊行の"Westermanns illustrierte deutsche Monatsschrift"に発表されたものである、わずか2ヶ月の違いである。このことは、鴎外が現代語の表現と文語調の表現を同一作品のなかで用いる上で理想的な作品を探していたことを示している。この翻訳の言語表現の詳細な分析に着手した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.コロナ・パンデミックの影響により、海外研究機関との直接的な接触が困難となり、筆者が予定していた渡欧も、海外からの研究者の招聘も実現することができなかった。この点では研究計画の遂行は困難を極めているが、国際演劇協会刊行の『国際演劇年鑑』に発表した鴎外没後100年の記念論稿「鴎外と舞台芸術」が英訳され、この過程のなかで海外研究者との内容のあるコミュニケーションを実現できた。 2.「現代語」による表現と古語による表現を同一作品のなかで用いることは鴎外の言語表現上の重要な実験であるが、このことが演劇翻訳ばかりでなく小説翻訳においても遂行されていたことが明らかになった。その分析は本研究に一層の広がりを与えるものである。 3.ホーフマンスタールの『オイディプス』改作に触発された鴎外の『曽我兄弟』改作の試みについて、河竹黙阿弥の歌舞伎テキストとの比較を通して、歌舞伎的要素の削除などについて具体的な研究がさらに進んだ。 4.ゲーテの『ファウスト』の原作に見られる韻文構成の分析と、それに基づく鴎外の翻訳の技法の解析について、研究上の大きな進展があった。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.鴎外の演劇翻訳に見られる言語表現上の特質について、特にゲーテの『ファウスト』の韻文構成に鴎外がどのような翻訳上の工夫を施しているのかを具体的な事例を挙げて分析を進めていく。 2.鴎外の改作に関して、『曽我兄弟』における場面設定や言語表現を河竹黙阿弥のテキストと比較しながら分析する。『山椒大夫』ついて、鴎外は一幕物への改作を構想したようであるが、この事情について資料の収集に努める。 3.「現代語」による表現と古語による表現が同一テキスト内に現れる事例として、演劇ではシュニツラーの『短剣を持ちたる女』も翻訳が代表例であるが、小説でも『山彦』に同じ現象が見られことから、前者のさらなる分析も含めて総合的に検討する。 4.鴎外の一幕物作品や『仮面』などの小品にニーチェの痕跡を認めることができる。これらは日本におけるニーチェ受容の重要な局面である。これまで十分に研究されておらず、しかも海外にはまったく発信されていない研究状況にあるので、この分野について開発的な研究を推進していく。
|
Causes of Carryover |
研究計画書に記載したドイツにおける資料調査(フランクフルト)、及びフライブルク大学及びコペンハーゲン大学の研究者の招聘を、コロナ・パンデミックの影響で実現できず、次年度使用額が生じた。パンデミックの状況が改善され次第、上記の研究を遂行する。
|
Research Products
(2 results)