2022 Fiscal Year Research-status Report
鴎外の演劇翻訳・改作・創作に関する日独比較文体論及び文献学的詩学に基づく国際研究
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19K00481
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
井戸田 総一郎 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 名誉教授 (40095576)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 演劇人鴎外 / 三田文学 / 自由劇場 / 小山内薫 / 吉井勇 / 永井荷風 / 雑誌スバル / 森峰子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年は鴎外没後100年、生誕160年の記念の年であることから、雑誌『三田文学』から原稿依頼があり、「演劇人森鴎外―『三田文学』と自由劇場」を執筆した。本研究は、自由劇場を初めとする新劇勃興期の小劇場運動と鴎外の関係を解明することを課題の一つに掲げているが、この論文を執筆する際の資料調査によって、この課題解決が大きく進展した。以下に重要な点を列挙する。 1)鴎外の母峰子の日記を分析することによって、弟篤次郎(三木竹二)の人間関係が鴎外と当時の演劇人との繋がりを生む重要な要素であることが明らかになった。特に小山内薫と鴎外の関わりを見ていく上で、峰子の日記は重要である。 2)1910年2月に鴎外は上田敏とともに慶應義塾顧問に就任し、5月には『三田文学』を創刊している。永井荷風はこの年の2月に慶應義塾に就任、小山内も同じく教壇に立っている。同年11月の『三田文学』には「自由劇場特別号」と題して、小山内の翻訳劇『夜の宿』(ゴーリキ作)が掲載され、翌月自由劇場第三回試演として舞台化されている。この時同時に上演された吉井勇の『夢介と僧と』は12月刊行の『三田文学』に掲載されている。このように鴎外を中心に人脈が形成される様相を分析できた。 3)陸軍軍医として重要な地位にあった鴎外が、軍服姿のままで、小山内や吉井などの若い世代の作家と歓談している様子を伝える貴重な資料が発見され、このことは公人としての鴎外と作家・演劇人としての鴎外という一見すると矛盾しているように見える様相を解明する手掛かりとなっている。この文脈で、鴎外のニーチェ受容を示す短編『あそび』などの分析が進み、さらに『三田文学』とニーチェというテーマ域が新たに浮上している。 以上のように、演劇人鴎外の実践面での活動の広がりを対象に分析する道筋が見え、これまでほとんど研究されてこなかった領域が開けてきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナパンデミックの影響で、海外において予定していた研究を遂行することができず、また海外の研究者を招聘することもできなかった。しかしこのような状況にあるにもかかわらず、『三田文学』の鴎外没後100年の企画を通して、本研究は演劇人鴎外をめぐる新しい認識の地平を開く貢献を果たすことができた。森鴎外と新劇運動の関りについては、これまで指摘はされるものの具体的な資料に基づく研究は遂行されてこなかった。本研究は『三田文学』の創刊当時の状況や掲載作品の分析などを通して、この分野が新しい研究領域を形成できることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.『三田文学』を介して鴎外は若い世代の作家を自由劇場運動と結び付けている。この文脈で、雑誌『スバル』や『屋上庭園』における若い世代の作家の発見について、従来よりも広い視点で考察する可能性が開けている。東京大学中央図書館鴎外文庫に所蔵されている関連資料の調査を遂行する。 2.鴎外をドイツ文学・演劇との関係で考察し、それをドイツ語で執筆することを促してくれたジーゲン大学名誉教授Helmut Schanze (アーヘン在住)を訪ね、これまでの研究成果を詳細に報告するとともに、今後の研究方向についてアドバイスを受ける。ドイツ語及び英語にによる本研究の成果発表の可能性について議論を深める。 3.鴎外の一幕物作品などにニーチェ受容の痕跡が多く見られる。この分野は日本でこれまほとんど研究されていない。特に本研究では『三田文学』掲載の鴎外以外の執筆者の作品、評論、論文なども視野に入れて、当時のニーチェ受容のなかでも非常に高いレベルに到達していた様相を明らかにする。 4.フランクフルトのFreies Hochstiftにおける鴎外とホーフマンスタールの関係に関わる資料調査を進めると同時に、ブリュッセルやロンドンの研究機関における鴎外研究者との交流をはかる。
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Causes of Carryover |
コロナパンデミックの影響で、予定していた海外での研究そして外国人研究者の招聘を実現できなかった。2023年度は、アーヘンのゲーテ協会からの講演依頼などがすでに届いている。この講演(10月)に際して、アーヘン在住のHelmut Schnaze教授と面談し、教授を通してブリュッセルやロンドンの比較文学者を紹介してもらう予定になっている。
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Research Products
(1 results)