2020 Fiscal Year Research-status Report
両大戦間期パリにおける環大西洋文学の形成をめぐる語圏・地域横断的研究
Project/Area Number |
19K00482
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中村 隆之 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (20510085)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環大西洋文学 / 両大戦間期パリ / ハイチ文学 / ブラック・モダニズム / ネグリチュード / パン・アフリカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「環大西洋文学」(地域、言語を横断するアフリカ系文学の運動を動態的に捉えようとする概念)の観点からフランス語圏、英語圏にわたる両大戦間期 にわたる非ヨーロッパ系文学の形成プロセスを総合的に解明することを目的とする。研究初年度にあたる2019年度は、1920年代から40年代にかけてのフランス本土におけるアフリカ・カリブ海出身者との出会いと相互作用を通じて形成される「黒人意識」の注目すべき側面のうち、英語圏のハーレム・ルネサンスが「環大西洋文学」形成に与えた役割を中心に研究を進めた。
2020年度は新型コロナウイルス感染症の流行により研究計画を変更せざるを得なかった。今年度に予定していた研究調査のための渡航が中止となったため、これまでに収集した資料の読み込み、論文執筆にあたっての準備を行なった。具体的にはフランスで1920年代にカリブ・アフリカ系の人々が発行した定期刊行物や、ハイチで1920年代に刊行された雑誌などである。
本研究計画に沿う直接の成果は今年度は出せなかったが、その副産物として、この「コロナ時代」に要請された2本の論考は研究成果に位置付けられる。ひとつは『現代思想』のエドゥアール・グリッサンの『〈関係〉の詩学』についての論考、いまひとつはブラック・ライヴズ・マター運動についての論考である。また、グリッサンと奴隷制の記憶をめぐるフランス語論文を依頼を受けて執筆し、グリッサンと『アコマ』誌についてのフランス語論文をフランス語圏研究の学術誌に投稿し、受理された。2本のフランス語論文については2021年度中に刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」で記したとおり、新型コロナウイルス感染症の流行による海外調査実施の困難のため「やや遅れている」と捉える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に基づいて執筆しようとしていたパン・アフリカニズムと共産主義をめぐる論文については、関連資料収集の実施が困難であるため、執筆内容の変更も考えなくてはならない。ハイチの「土着主義」がパリの「黒人世界」に果たした役割についての論考も同時に準備していく必要があるが、どのような構成で論文とするのかについては、2021年度中に考え、執筆を進める予定である。発表媒体は、本研究の成果として刊行予定の単著の単行本、あるいは本研究内容に即した依頼原稿(岩波書店の『世界歴史』)を予定している。
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Causes of Carryover |
海外渡航用の旅費が執行できなかったことから未使用額が生じた。新型コロナウイルス感染症の流行継続という予想のもと、2021年度以降は旅費以外の使途を考える。2021年度にかぎらないが、研究成果物の執筆・刊行・フィードバックに向けても本助成金を有効に活用するつもりである。
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