2020 Fiscal Year Research-status Report
Study of the missing part of the medieval occitan manuscripts
Project/Area Number |
19K00483
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
瀬戸 直彦 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30206643)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トルバドゥール / 写本の欠損 / 写本の付け足し / フラメンカ / 中世フランスの物語 / ダウデ・デ・プラダス / ギラウト・リキエル |
Outline of Annual Research Achievements |
「フランス中世写本における欠損部分の研究」と題した今回の研究課題には「とくにオック語文献について」という副題をつけておいた。3年間の研究期間のうちの2年目にあたる今年度は,以下の3つの方向から研究を進めることができた。
(1)「フラメンカ」という中世南仏文学の傑作における欠損について。カルカッソンヌ写本によってのみテクストが伝わっているが,最初と最後の部分が欠けているばかりか,途中の,たとえば主人公のギヨームがヒロインに宛てたラブレターも欠けている。これは,妻の不貞を疑わないアルシャンボー伯が,それと知らずにみずから妻(フラメンカ)に見せるという設定となっている。肝心の書簡の部分が切除されていることに注目してみた。 (2)ダウデ・デ・プラダスというトルバドゥールは,近年シャンボンの研究により,「フラメンカ」の作者に擬せられている。ダウデという,あまり注目されることのないトルバドゥールは13世紀前半のロデスの聖堂参事会員で,当時のいわば知識人であり,19篇もの作品を残している。2015年に新しいスィルヴィオ・メラーニの校訂版が出版された。この人の「愛が私を誘い命じるのだ」(12写本)で始まる作品をC写本から校訂して,メラーニのテクストと校合し,作品のユニークさを検討してみた。 (3)「最後のトルバドゥール」としばしば形容されるギラウト・リキエル(13世紀後半)のパストゥレル(牧歌)6篇につき,なぜC写本にのみ収録されており,おなじ南仏起原の,雁行するR写本に入っていないのかを検討しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年7月に,トリノ大学主催の北イタリアのクネオで開催される予定であった国際学会(AIEO)が,コロナ禍により中止のやむなきに至った。私は上記の「概要」でしめしたダウデ・デ・プラダスの一作品にかんして発表するつもりでいたので,残念であった。しかし,この環境を利用してダウデ・デ・プラダスのテクストを精読できたし,合わせて研究計画に含まれていたC写本とR写本の比較という観点からすると,ギラウト・リキエルのパストゥレルに着目することができたのは僥倖だったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「フラメンカ」については,テクストの欠損について,さまざまな視点から引き続き検討していきたい。語彙の比較により,ソルボンヌ大のジャン・ピエール・シャンボンによってこの物語の作者かもしれないとされるダウデ・デ・プラダスについては,今回の研究計画では語彙面での研究まで踏み込む余裕はないだろう。その19篇にのぼる作品と「フラメンカ」の内容の比較は検討に値すると考えている。
また,ギラウト・リキエルについては,欠損というよりは逆に「付け足し」という部分が興味深い。写字生によって,各作品に「ギラウト・リキエル殿が何年何月に記したパストゥレル」などと情報が付加されているのである。研究計画でも指摘しておいたが,「欠損」と相対する「付け足し」という視点もとりいれたいと思っている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により,イタリアへの学会出張がなくなったため。次年度の物品費として使用する予定。
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Research Products
(2 results)