2020 Fiscal Year Research-status Report
Reconsider the Concept of the "Classic" in German Literature
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19K00492
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大宮 勘一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40233267)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / ドイツ思想 / 古典主義 / ロマン主義 / 文学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、コロナの影響によって、予定していた国内外でのシンポジウムが取りやめとなり、主に個別の研究活動のみを進めることを余儀なくされたが、特筆できる成果は二つある。一つめの成果は、ドイツ文学研究国際誌"Internationale Germanistik"に査読付き論文"Von Kokugaku zur Japanischen Romantik"が掲載されたことである。本論文は、1930年代の知的現象である日本浪曼派が、第一に同時代のドイツにおいて展開された新ロマン主義や保守革命と歩調を合わせたものであることを、第二に、そのとなえる日本文芸の古典性が近代以前の国学において先取りされていたことを論じるものである。さらに第三に、その国学、就中本居宣長の「古道」における「和意」/「漢意」の区別、およびそれら各々の表記システムである「かな」/「漢字」の区別が「固有性」の産出母体としての「他者」との同一化と、同じその「他者」の排除という「古典」言説の両義性の表現であることを論じるものである。 二つ目の成果は、フリードリヒ・キットラー著『書き取りシステム 1800・1900(Aufschreibesysteme 1800・1900)』(共訳・インスクリプト社)の翻訳を完成させたことである。ドイツ・メディア学の基礎文献である本書は、ドイツ文学における「古典」の成立経緯と解体過程を、1800年、1900年それぞれの時代における言説の回路図に従って大きなスケールで論じる大著であり、それを読解しながらの翻訳作業は本研究プロジェクトに大いに資するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
個別研究は順調に進めているが、コロナの影響によって、内外の研究者との議論・対話の機会を設けることが困難で、共同研究の点で進捗が遅れている。特に、2020年度にはドイツ、ヴァイマル市の「古典財団」の協力を仰ぎ、古典言説の再検討をめぐるシンポジウムを計画していたが、直接的な人的交流が不可能となり、その開催を断念せざるを得なかった。他方しかし、リモート・メディアによる意見交換を進めることができたのは収穫である。その際、現在世界的に蔓延するウィルスによる現象と比較可能な事例を過去の文学的証言に求め、そこで世界がどのような方策によってどのように変容したかについて考察を述べ合う機会を設けることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2021年度は、リモート通信システムを用いた研究交流も駆使しつつ、共同研究の機会を多く設けてゆきたい。10月にはドイツ・ベルリンで二つの研究集会が予定され、招待を受けており、これに参加すべく講演原稿を執筆している。また、研究成果を書籍化する計画である。一つ目はハーゲン大学の研究グループによる「犠牲とジェンダー」をテーマとするワークショップである。近代ドイツ文学が古代ギリシャに偉大なる参照項を見出そうとした際、最も着目したのは悲劇、すなわち供犠をめぐる作品群であった。近代ドイツ悲劇の嚆矢とされるレッシングの『エミーリア・ガロッティ』や、いわゆる「ヴァイマルの古典主義」の精華とされるゲーテの『タウリスのイフィゲーニエ』が典型であるように、犠牲とジェンダー秩序とは大いに重なり合う主題である。ドイツの古典概念を考察する際にも両者の織りなす輻輳は避けて通ることのできな問題圏である。本研究プロジェクトと関わりの深いこのワークショップにおいて、報告者は、劇作家ホーフマンスタールによって20世紀初頭に古典悲劇から翻案された『エレクトラ』に関する報告を行う。 ベルリン自由大学の研究プロジェクト「テンポラルな共同体 ー グローバルな視野における文学行為」において、同じくワークショップへの参加を求められている。報告者はこのプロジェクトと初期から関係を維持してきたが、今回はまさしく「パンデミック」という主題への寄与を求められており、哲学者ハイデガーと政治思想家アーレントの行為論の差異をめぐって報告を行う予定である。いずれも論文としての出版を見込んでいる。 プロジェクト最終年度である2021年度には、本プロジェクトのテーマによる単著の論集刊行を計画している。
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Causes of Carryover |
コロナの蔓延により、予定していた海外での研究活動(シンポジウム、ワークショップ、研究集会への参加)ができなかったため。 2021年度には2回のワークショップ参加を計画しており、その渡航費用に充当することを見込んでいる。
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Research Products
(6 results)