2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K00495
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
田中 琢三 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (50610945)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フランス文学 / ナショナリズム / キリスト教 / モニュメント / モーリス・バレス / ジャンヌ・ダルク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の4年目となる令和4年度は、フランスの作家モーリス・バレス(1862-1923)におけるジャンル・ダルクの受容について、パリのピラミッド広場にあるジャンヌ・ダルク像との関係を視野に入れながら検討した。第一次世界大戦後のバレスが著作や演説において頻繁に言及しているのが、バレスと同じくロレーヌ地方出身のジャンヌ・ダルクであった。大戦中にバレスはジャンヌ・ダルクを党派を超えてフランス国民を統合しうるシンボルとして称え、戦意高揚のための愛国的なプロパガンダに利用した。他方で、ジャンヌは、カトリックの聖女であるとともに、故郷の村ドンレミにおいてはキリスト教のカトリックだけではなく、古代ケルトのドルイド教の異教的な風土の影響を受けて育った両義的な存在であり、ブレーズ・パスカルとともに晩年のバレスの宗教的な思索の主たる対象ともなっている。バレスにおいて、ジャンヌ・ダルクという国民的英雄がどのような意味を有していたのかを、彼が1898年から死去するまで書き続けた私的な手記『わが手帖』や死後刊行された『光に包まれた神秘』(1926)に収録されたエッセー「ジャンヌ・ダルクの子ども時代」などを参照しながら、バレスと関係が深いパリのジャンヌ・ダルクのモニュメントに関する考察を交えて分析した。そして、その成果を2022年9月17日にオンラインで開催されたお茶の水女子大学仏語圏言語文化学会の2022年度大会において「フランス第三共和政におけるナショナリズムと宗教:モーリス・バレスのジャンヌ・ダルク受容をめぐって」と題した講演において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、本研究は当初の研究計画通りにバレスの著作を時代順に取り上げ、それらの作品におけるモニュメントの問題について考察を行ってきた。具体的には、1年目は『デラシネ』(1897)を研究対象として、パリの代表的なモニュメントのひとつである霊廟パンテオンの表象を検討し、2年目は『兵士への呼びかけ』(1900)に含まれるモーゼル川流域の自転車旅行のエピソードに注目し、この旅行記に登場する普仏戦争の戦没者記念碑などのモニュメントの物語的・イデオロギー的機能について分析した。3年目は、『霊感の丘』(1913)を取り上げ、この小説における宗教的なモニュメントの表象を検討した。そして4年目は1914年に始まった第一次世界大戦以後の時期を主たる対象とし、バレスのジャンヌ・ダルクの受容について、パリのジャンヌ・ダルク像とこの作家の関係を検討しながら研究を進めた。本研究は、これまでモニュメントというテーマを軸としながら、モニュメントの表象という問題だけではなく、時代を追うごとにバレスのナショナリズムが宗教性を帯びた思想に変化していくプロセスも明らかにしてきたという意味において、順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる令和5年度は、第一次世界大戦後にバレスが提案したジャンヌ・ダルクのモニュメントをストラスブールに建てるという構想に着目し、晩年のバレスにおけるモニュメントをめぐるの問題を考察する。第一次世界大戦でフランスはドイツに勝利し、ドイツからアルザス・ロレーヌを奪還する。バレスはこれらの地域や非武装化されたラインラントをフランスに精神的に統合させるべく活動するが、その統合のシンボルとしてバレスが持ち出したのがジャンヌ・ダルクであった。バレスはジャンヌ・ダルクのモニュメントをアルザス地方の都市ストラスブールに建てることを訴えた。バレスの手記『わが手帖』や、『ラインの精髄』(1921)などの我が国ではほとんど研究されていない大戦前後の著作を参照しながら、この構想がどのような背景や意義を持っているのかを検討し、バレスの政治的・文化的活動においてモニュメントが果たす役割を明らかにして、その成果を論文にまとめて学術雑誌に発表する。さらに本研究の集大成となる著作の刊行にむけて準備を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和2年度から4年度にかけての新型コロナウィルスの世界的流行により、計画していたフランスにおける文献調査を実施できず、予算を執行できなかったので次年度使用が生じた。令和5年度は、フランスにおける文献調査や、研究書などの図書の購入、あるいは個人HPの充実などのために助成金を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)