2019 Fiscal Year Research-status Report
エルンスト・ブロッホにおける「世俗=世界的批評」―日独比較対照の視座からの研究
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19K00496
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
吉田 治代 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (70460011)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ドイツ思想史 / 亡命研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は諸事情により、予定していたドイツでの調査を断念したため、個人研究室での資料整理・読解作業が中心となった。その成果としては以下が挙げられる。 夏季休暇を利用して、ブロッホ第二の亡命期である1930年代から40年代にかけての評論やエッセイなどの整理と読解に取り組んだ。この時期の評論は、ブロッホ自身の手による全集に一部収録されているが、後から手を加えられているものもあれば、収録されていないものもある。従って、近年になって一部刊行されるようになったオリジナルのテクスト、さらに当時雑誌などで出版されたオリジナル資料に当たる必要がある。今回はまず前者のテクストを整理した。というのも、ブロッホの評論集、エッセイ集などが1980年代以降、数多く出版されているからである。しかし必ずしも時系列に沿っていないため、本作業では、これらの資料を時系列に整理、さらに同時期の書簡も含めて、亡命期ブロッホの思考の軌跡をたどった。 第二の仕事として、近代ドイツのコスモポリタニズムに関する研究会に参加し、2020年度日本独文学会秋季大会でのシンポジウム開催に向けて準備を進めたことが挙げられる。これまでの研究においても、既に第一次大戦期にスイスに亡命したブロッホのコスモポリタニズムには言及したことがあるものの、それを西洋のコスモポリタニズム思想の系譜に位置づけて検討するという視点はなかった。しかし、第二の亡命時代の彼の「世俗=世界性」を問う本研究は、まさに「世界市民性」への問いである。ブロッホとは対照的な思想家とされるカール・レーヴィットを比較対象として取り上げ、ブロッホの立場をも相対化しつつも、その意義を明らかにしたいと考える。 さらに「世俗化」をテーマにした研究会において、レーヴィットの世俗化論を亡命者の立場からの議論と捉え読み直すという発表を2月に予定していたが、コロナ感染拡大により中止となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
3年間のプロジェクト全体の進捗状況としては、遅延していると言わざるを得ない。2020年度に教授昇任となり、学部の執行部に入ることになったためである。とりわけ学務委員長(副学部長職)として、カリキュラムから入試まで、学部のあらゆることを取り仕切る委員会の長として、改組を控えた2020年度は春から多忙を極めた。夏期にドイツでの研究滞在を予定していたが、そのような時間もなく断念した。任期は2021年度いっぱいである。年間を通してそもそも多忙な職であるが、さらにコロナ禍により仕事量が増えている。2021年度も、ドイツでの研究滞在は困難であると考える。また、国内での研究会などもコロナ禍によって様々な困難を抱え、発表活動なども制限されている。ただ、ブロッホの資料の多くは手元にあり、さらにドイツのブロッホ資料館ともコンタクトをとれる状況にあるので、研究室にて少しずつ研究を進めることは可能である。しかしいずれにせよ、本研究の期間に合わせるような形で執行部に入ることは全く想定していなかったため、研究期間の延長も考慮に入れざるをえないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のとおり、学部執行部での役職が2021年度いっぱい続くことに加え、コロナ禍により、研究活動が制限されると考える。予定していた夏のドイツ研究滞在も断念せざるを得ない。したがって、主に研究室での文献分析が中心となる。 2020年度の研究により、レーヴィットとブロッホの比較が、本研究に有益だとの認識を得た。レーヴィットもまたナチスを批判し、絶対的イデオロギーによる救済という考えに懐疑を向ける「世俗性」を有する。そして日本にも亡命するという広い「世界」経験を有する。マルクス主義にも懐疑の眼差しを向けたレーヴィットについて、ブロッホと異なり、今日からすれば、その批判性が評価されるということになろうが、他方で、彼の非政治的な保守性も明らかである。レーヴィットという比較対象を置くことで、ブロッホの〈世俗=世界性〉の特徴をより明確に浮かび上がらせることができるだろう。今年度は、まず上述した、10月に予定されている日本独文学会秋季大会でのシンポジウム参加に向けて、ブロッホとレーヴィットにおけるコスモポリタニズムについて引き続き研究を進める。さらに、これも当初計画では想定していなかったことだが、「学問史」をテーマに、ドイツで刊行される論集に参加が決まったため、この課題に取り組む必要がある。ここでも、レーヴィットとブロッホの思想を比較したい。 本研究が掲げている、ブロッホと日本の同時代の思想家との比較対照という課題は、まだ手がつけられていない。しかし、レーヴィットという、日本滞在経験のあるドイツ思想家を絡ませることは、日本との関連付けにも有益であるので、上記の二つの仕事が終わり次第、取り組みたい。
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Causes of Carryover |
学部執行部での業務により、予定していたドイツでの研究滞在を中止した。さらに、年度末、東京での口頭発表のため出張を予定していたが、コロナ感染拡大によりキャンセルとなった。このように、旅費をほとんど出費しなかったため、次年度使用額が生じた。2020年度もドイツでの資料調査は困難であるため、2021年度に回す予定である。また、研究期間の1年延長も検討している。
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Research Products
(1 results)