2020 Fiscal Year Research-status Report
エルンスト・ブロッホにおける「世俗=世界的批評」―日独比較対照の視座からの研究
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19K00496
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
吉田 治代 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (70460011)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 近代ドイツ思想 / コスモポリタニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は下記にも記す諸事情により、研究室での作業が中心となった。成果としては以下の二点が挙げられる。 第一に、「学問史」をテーマとするドイツ語の論文集(Wissen ueber Wissenschaft)に共編者として参加し寄稿することとなった。すでに前年度より、ブロッホの「世俗=世界性」を問う本研究においてブロッホとの比較対象としてレーヴィットに着目し、レーヴィットの著作についても研究を進めていた。彼はブロッホとは異なり、ドイツにおいても、亡命期においても、学術機関との結びつきを失わなかったアカデミックな哲学者であり、「内部」の視点から、批判的な学問史記述を試みた人物である。よって、この論文(Karl Loewiths Studium der Geschichte. Expatriation und saekulare Kritik)ではレーヴィットにフォーカスし、その歴史学・歴史哲学批判を取り上げた。まず第一次大戦とドイツ革命の経験を通して、いかなる宗教的、政治的ドグマにも懐疑の眼差しを向けていく彼の世俗批評性を指摘した。さらにレーヴィットは、ヘーゲルとニーチェという「極端」な立場に対抗した歴史家としてブルクハルトに光を当て、ナチズムの危機の只中でブルクハルトの批判的歴史研究を再評価していくが、その学問史的仕事の中に、レーヴィット自身の世俗批評性が見出されることを明らかにした。第二に、昨年度から参加しているコスモポリタニズム研究会に継続して関わり、日本独文学会でのシンポジウム開催(2020年秋に予定していたが、2021年初夏に延期)に向けて準備を進めた。レーヴィットとブロッホが彼らの亡命=世界経験の只中で、それぞれ異なる視角からであれ、ギリシアに由来する西洋のコスモポリタニズムの伝統に再び接続し、戦後ドイツに帰国した後も、その遺産相続を試みたことを明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
三年間で完結するプロジェクトとしての進捗状況は、遅延していると言わざるを得ない。プロジェクト開始の2019年度より(昨年度の報告書に「2020年度から」とあるのは誤記)教授昇任したのに合わせて副学部長職学務委員長となり、新潟大学人文学部の学務の責任者として多忙を極めた。2020年度も継続して学務委員長職にありコロナ対応を迫られたのに加え、2020年度をもって新潟大学を退職、立教大学に転出することが決まり、後任人事に関わる仕事や転出の準備に追われたためである。また、2019年度は学務の仕事によりドイツ渡航を断念したが、2020年度はコロナ禍もあって、ドイツ出張のみならず、予定していた学会発表の出張も中止となった。2021年度についても、ドイツ出張の見込みも立たないため、研究期間の延長を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、当初予定では最終年度である2021年度についても、ドイツ出張や国内出張も自由にできない状況が見込まれるため、研究室での文献読解と分析が中心的作業となる。プロジェクト初年次である2019年度のうちに、レーヴィットという比較対象を追加し、そして「世俗=世界性」という本プロジェクトのテーマをコスモポリタニズム思想の系譜とも関連させるという、プロジェクトの方向修正を試みたが、2020年度の仕事は、この点では「研究実績の概要」に記載したとおり、一定の成果をあげていると言うことができる。2021年度は、まず延期されている日本独文学会でのシンポジウム「コスモポリタン・ナラティブ」(6月開催予定)においてレーヴィットとブロッホのコスモポリタニズムを比較検討し、口頭発表での経験を踏まえて、論文として刊行できるよう、さらに研究を進める予定である。この発表ではレーヴィットにより比重を置いているため、ブロッホのコスモポリタニズム思想の展開について、さらに研究を進めたい。特にアメリカ亡命時代の仕事については、その全貌が未だ明らかとなっていない。SNSも利用してドイツのブロッホ資料館にも情報を求めながら、調査を進める。2021年度は、コロナ禍がまだ予断を許さない状況であるのに加え、新たな勤務校での初年度でもあるため、本研究が掲げている、日本の同時代の思想家との比較対照という課題については、手がつけられない可能性が高い。プロジェクトの一年延長も検討しつつ、環境が整い次第、この分野の研究者との連携を視野に入れていく。
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Causes of Carryover |
学部執行部での業務とコロナ禍により、また大学の転出に関わる仕事のため、予定していたドイツでの研究滞在を昨年に続けて中止しており、また研究に費やす時間が取れない状況が続いている。また国内においても、研究発表会や学会が中止やオンライン開催に切り替わり、出張旅費の出費がなくなっている。以上の理由により、次年度使用額が生じている。今年度もコロナ禍のため、海外出張、国内出張の見通しが立たないため、主に書籍の購入に経費を使用する予定である。研究期間を1年延長し、来年度にドイツでの調査を行うことを検討している。
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Research Products
(1 results)