2021 Fiscal Year Research-status Report
エルンスト・ブロッホにおける「世俗=世界的批評」―日独比較対照の視座からの研究
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19K00496
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
吉田 治代 立教大学, 文学部, 教授 (70460011)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近代ドイツ思想 / コスモポリタニズム / 亡命研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
エルンスト・ブロッホの亡命時代における「世俗=世界的批評」を、コスモポリタニズムの思想の系譜に位置付けながら読み直すという作業を続けてきた。2021年度の成果としては、ブロッホと、同様にナチスドイツからの亡命者であったカール・レーヴィットのコスモポリタニズムを検討した口頭発表「亡命が遺したもの―レーヴィットとブロッホのコスモポリタニズム」が挙げられる。20世紀においてコスモポリタニズムは、ナショナリズムの台頭、また「西洋的普遍主義」に対する異議申し立てによって評判を落とすことになるが、同時に、世界戦争の危機の只中で、古代ギリシアに遡るコスモポリス思想の批判的再獲得が目指されることにもなった。レーヴィットのコスモポリタニズムは東洋(日本)を古代ギリシアと繋げて〈われわれ〉の中に引き入れつつ、人間存在を包括する自然に調和して人々が生きる共同体を志向する。他方ブロッホが主眼を置くのは、「人間の尊厳」を求める思想としての自然法の遺産相続である。ここに、古代から近代までの普遍主義的コスモポリタニズムの規範的側面に合意しながら、普遍的理念によって繋がる〈われわれ〉を拡げていこうとするブロッホの試みが認められる。ブロッホのコスモポリタニズムに関する研究成果は次年度に論文として公刊予定である。上記の他に、第一次世界大戦を決定的な出発点とするブロッホの思想的軌跡をたどる研究を継続的に続けている。特に第一次大戦期におけるブロッホとフーゴ・バルの思想的交流を取り上げ、口頭発表「ベルン(1917-19)のネオ・ヨアキム主義―フーゴ・バルとエルンスト・ブロッホ」を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の影響により、ドイツでの資料調査ができない状況が続いており、補助期間についても1年間延長した。しかしブロッホに関する研究計画については、メールを通じてドイツのブロッホ資料館にも情報提供を依頼しながら、ある程度達成することができた。最終年度である22年度も、ドイツでの調査が難しい場合には、引き続き、国内での研究、資料収集に専念する。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の前半は、ブロッホとコスモポリタニズムをテーマとした論文の刊行に注力する。これまでの研究成果を踏まえ、ブロッホの「世俗=世界(市民)」的思考を、第一次大戦中の亡命期から第二次大戦中の亡命期にかけて跡付けていきたい。この主題は、第二次大戦後、亡命先のアメリカからまずは東ドイツに移住したブロッホが最終的に西ドイツに亡命する、晩年の思想(例えば『自然法と人間の尊厳』)にまで通底すると想定される。予定している論文では十分には扱えないが、今後、第二次世界大戦後まで視野に入れてブロッホを読み直すための足がかりとなる作業と位置付けられる。年度後半では、日本の同時代の思想家との比較対照という課題に取り組む。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響により、ドイツでの資料調査ができない状況が続いており、また国内での出張などもキャンセルとなり、旅費の予算執行ができていない。22年度も海外/国内出張が難しい場合には、資料収集のために予算を使用する。
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Research Products
(2 results)