2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00505
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
博多 かおる 上智大学, 文学部, 教授 (60368446)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヘテロトピア / 隣接 / 併置 / 異時間 / 庭 / 離れ / ジョルジュ・サンド / バルザック |
Outline of Annual Research Achievements |
フランス19世紀文学の中でヘテロトピアとみなせる場所とその特性について広く調査を進めると同時に、特に重要と思われる作品について詳細な分析を行った。特にバルザックの『人間喜劇』において、街路と屋内の間にありやや見過ごされてきた庭という空間が他と異なる時間性をはらみながら周囲と異なる空間となる場合について、『二人の若妻の手記』、『三十女』、『ウージェニー・グランデ』、『モデスト・ミニョン』、『偽りの愛人』などを読み解きつつ解析した。温室や地図、鏡といった装置を介して、室内や庭がすぐれてヘテロトピア的な空間である船と切り結ぶ関係を論ずることで、『人間喜劇』がそのさまざまな<情景>と同じ現実性をもって描くことのできない外洋や異国、現実から遠ざかる時間などと私生活の情景の隠れた関係が理解された。またフーコーがヘテロトピアの属性として挙げていた、同じかたちをとり続けるヘテロトピアは存在しないこと、ヘテロトピアが周囲の空間とつながったりそこから切り離されたりする独特なシステムを持っていることなどは、想像力や情報の流れと結びついて小説を展開する要素となることがわかった。 続いてジョルジュ・サンドの小説『アントニア』や『アンドレ』において庭や「離れ」の役割を検討し、窓や境界の機能を詳細に把握することを試みた。さまざまな庭の形態とそれが表現する時代の断絶、庭に埋め込まれた多様な感覚的要素や文学的記憶が生む「異空間性」などについても論じた。「並置」「隣接」という概念を問い直すことで、並んでいたり隣り合っていたりする空間の異質性についてより正確な把握が可能になった。特に「隣接」が「併置」にとどまらず、比較しあったり境界線を共有しあったりしてその違いが透かし合わされるとき、小説的な空間の詩情の生成や再現が可能になることを明らかにできたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の遂行の中で発見した問題を鍵としてさらに深く課題を展開できている点では順調に、あるいは期待以上の成果を出せている点もある。反面、コロナ禍でフランス国立図書館でしか閲覧できない資料をもとにした調査などはまだ一部行えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は資料のPDF化を申請できる場合は行い、できるかぎり必要な資料を入手し研究を完了させる。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍による渡航困難と渡航後の業務の遂行に関する懸念のため、フランス国立図書館で必要な資料調査を行うことができなかった。次年度に請求した助成金を用い、より精密な調査のもとに研究を完成するつもりである。
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