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2019 Fiscal Year Research-status Report

アルノー『頻繁な聖体拝領』(1643)生成再考:サン・シラン書簡新配列に基づいて

Research Project

Project/Area Number 19K00506
Research InstitutionMusashi University

Principal Investigator

望月 ゆか  武蔵大学, 人文学部, 教授 (30350226)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2024-03-31
Keywordsジャンセニスム / 頻繁な聖体拝領 / サン・シラン / アルノー
Outline of Annual Research Achievements

アルノー著『頻繁な聖体拝領』(1643年刊行)はフランス・ジャンセニスムの源泉であり、カトリック霊性・神学史およびフランス文学史上、重要な位置を占めている。ジャンセニスト歴史記述においては18世紀以来、若きアルノーが1641年、数ヶ月で一気に書き上げた一枚岩の著作であると紹介されてきた。オルシバル(1961; 1962)は、リシュリューによりヴァンセンヌ城に5年間(1638年5月~1643年2月)囚われていた、師サン・シランが書簡や文書により構想段階で関わっていたことを明らかにしたが、執筆時期についてはほぼ定説に従っている。
『頻繁』の生成過程を解明する上で最重要の資料はサン・シラン書簡であり、アルノー宛書簡はドネツコフが編んだ網羅的批判校訂版(2002年、未公刊)で98通が所収されている。しかし、研究代表者は複数書簡の比較から、日付が欠落ないしは不完全の約50通の書簡の推定年代の多くが誤りであると推測する。これは『頻繁』の生成過程、ひいては作品成立の時代的意味を大きく塗り替えるはずである。また、その誤りの原因は編者ではなく、18世紀初頭のサン・シラン書簡の写本制作者の勘違いに由来することも突き止めている。しかもこの誤解は、『頻繁』公刊直後の論争におけるポール・ロワイヤル陣営の歴史記述そのものに基づいていたのだ。作品は足掛け2年半に及ぶ期間を経て、主張の方向性が大きく二度変更されたはずだが、なぜこの事実は明らかにされなかったのか。サン・シラン書簡の実証批判的研究、『頻繁』の執筆当時および公刊後の論争の分析を通し、フランス・ジャンセニスムの誕生の経緯の解明に迫ることができるだろう。
2019年度は、ヴァンセンヌ城のサン・シランの最終居室がルイ13世の第二寝室であったが、伏せられていたこと、この点と『頻繁』生成に関するポール・ロワイヤル歴史記述の沈黙の関連について明らかにした。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

初年度である2019年度は、サン・シランのヴァンセンヌ城幽閉について単なる事実確認として始めた現地調査が、ジャンセニスム研究と建築史の分野における新たな問題の発見と解明につながった。サン・シランの居室については、伝記作者は一度の引越しについて述べるのみだが、古文書によれば、実際は1641年7月に二度目の引越しがあった。その記述について一部の研究者が指摘していたが、大半が謎めいた内容で、建築的見地からこの意味を明確に説明できた者はいなかった。
研究代表者は、同城での複数の現地調査と建築史の綿密な検討から、弟子たちが沈黙を守っていた第三の居室の時代があったこと、それは「王の館」内の寝室、しかもルイ13世の第二寝室であり、それ以前の二つの居室(主塔とサント・シャペル聖堂参事会員用居住域)に比べれば格段の好待遇であったことを明らかにした。また、ジャンセニスム歴史記述における二つの欠落-『頻繁』の生成過程についての沈黙とサン・シランの伝記における沈黙-の間には、大きな関連があり、後者から前者の説明を導き出せることを解明した。
ヴァンセンヌの「王の館」の建築史は十分に解明されていない。サン・シランが幽閉されていた時代はル=ヴォーによる大改築直前の時代に当たり、資料が欠落したブラックボックス状態であった。研究代表者が仮説的に復元したルイ13世の館の図面は、建築史家たちの定説と異なっており、ヴァンセンヌ城建築史上でも価値ある発見と言える。
しかし、建築の素養がなく、図面の復元等に多大な時間を要した結果、初年度はほぼヴァンセンヌ城関係の調査で終わってしまった。また、コロナウィルスによる渡航制限により、フランスでの古文書最終調査が実施できず、以上の成果は論文として100%完成するには至っていない。本年度の第一の目的であった『頻繁』の生成過程隠滅の経緯についてほぼ終了した状態である。

Strategy for Future Research Activity

初年度に終了できなかった、アルノー宛てサン・シラン書簡写本成立経緯については、次年度に継続する。また同書簡分析と批判校訂作業については、当初約50通全体の予定だったが、重要な書簡のみに対象を限定して、次年度に継続する。
なお、コロナウィルスのために、サン・シランとヴァンセンヌ城についてのSociete des Amis de Port-Royalの招待講演(2020年3月21日、パリ、ポール・ロワイヤル旧修道院にて)は、主催者により直前に中止された。同主題については2019年度中に、フランスの権威ある17世紀研究誌Dix-septieme siecleに投稿予定でもあったが、最後の古文書調査がコロナウィルスで出張できず未完了のため、叶わなかった。こちらは次年度に調査が終了次第、投稿するつもりである。

Causes of Carryover

次年度使用額(繰越)が生じたのは、2020年3月のフランス出張がコロナウィルスにより中止となったことが主たる理由である。その他、サン・シラン書簡の批判校訂の作業が進まず、論文のネイティヴチェックが予定より少なかったことも挙げられる。フランス出張は次年度3月に繰り越す予定。

  • Research Products

    (3 results)

All 2020 2019

All Journal Article (1 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results,  Peer Reviewed: 1 results) Presentation (2 results) (of which Invited: 2 results)

  • [Journal Article] 中世ヨーロッパの霊性史における情動性2019

    • Author(s)
      セドリック・ジロー(訳・解題 = 津崎良典・望月ゆか)
    • Journal Title

      思想

      Volume: 第1141号 Pages: 44-63

    • Peer Reviewed / Int'l Joint Research
  • [Presentation] パスカル『恩寵文書』の歴史的文脈2020

    • Author(s)
      望月ゆか
    • Organizer
      第1回恩寵勉強会
    • Invited
  • [Presentation] トリエント公会議第5総会(1546)原罪(その1)2020

    • Author(s)
      望月ゆか
    • Organizer
      第2回恩寵勉強会
    • Invited

URL: 

Published: 2021-01-27  

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