2022 Fiscal Year Research-status Report
アルノー『頻繁な聖体拝領』(1643)生成再考:サン・シラン書簡新配列に基づいて
Project/Area Number |
19K00506
|
Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
望月 ゆか 武蔵大学, 人文学部, 教授 (30350226)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ヴァンセンヌ城 / サン・シラン / アルノー / 『頻繁な聖体拝領』 / ポール・ロワイヤル |
Outline of Annual Research Achievements |
「『頻繁な聖体拝領』の真の著者」は、本作品を巡る論争の重要テーマである。イエズス会を中心とする反対勢力は、実の著者はヴァンセンヌに囚われの身であったアルノーの師サン・シランであり、著書は敬虔な仮面の下に教会転覆につながる危険な「サン・シランの格率」を含んでいたと攻撃していた。サン・シラン捕囚時代の正確な情報は、『頻繁』の生成研究にとって必須である。ところが、ポール・ロワイヤルの歴史記述においては投獄直後の主塔と次の住居までしか記載がない。1950年代、第三・第四の居室があったことを伝える新資料が発見されたが、謎めいた記述が多く、それらの位置はこれまで同定されてこなかった。 本研究者は2019年度に、最後の居室がルイ13世の王館であることを突き止めた。現在の王館は、ルイ14世の王館の復元であり、前王時代の建物を基礎としている。しかし、実はルイ13世の王館は建造の経緯、全体的構造も含め、現在もヴァンセンヌ城建築史上においては謎の多い部分である。コジャノは2014年に、建造の紆余曲折に関する復元仮説を立てたが、定説部分を含めポール・ロワイヤルの証言との矛盾が複数ある。2020年度は1610年代前半の王館建造に関する古文書を再検討し、2022年度は定説が拠る最重要資料である、1650年代初めのI. シルヴェストルによる版画を検討した。3年ぶりに再開できた仏現地調査では建築士の助言も得ながら、最終的に王館の階層構造、サン・シランが住んだ1階部分の床・窓の高さ、版画の作成時代、版画に描かれた廃墟の意味の解明に成功した。 サン・シランが王館で旧女王用の寝室(当時は王の補助寝室)を充てがわれたことは、彼の教説の正当性の間接的な裏付けであった。それにもかかわらずポール・ロワイヤルがそれについて沈黙を守ったとすれば、それは『頻繁な聖体拝領』刊行後の論争における戦略的な意図によるものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ヴァンセンヌ城におけるサン・シランの最後の牢であった、ルイ13世の王館の構造について、建築史上の定説にはポール・ロワイヤルの証言と矛盾する部分が複数存在していた。定説の最大の根拠であった版画にも、忠実な部分と単純化、つまりデフォルメされた部分があり、その見極めを行うためには、建築史に関わる一定の素養が必要であり、古文書と現地調査を組み合わせなければ解決不可能であった。そもそも王館の構造についてこれほど建築史上の謎と矛盾が存在していなければ、当該部分は2019年度中に調査開始・終了していたはずであった。3年間、コロナ禍のためにフランス現地調査がストップしていたこと、建築の非専門家が定説を覆すためには細部に至るまで綿密な検討が必要だったこと、この2点が研究の遅れの最大の原因であるが、今年度ようやく本件についての目処をつけることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度中の研究は以下を予定している。 1)2022年度に終了したヴァンセンヌ城におけるサン・シランの牢獄についてのフランス語原稿を整理し、XVIIe siecle に投稿する。量が多すぎて拒否された場合は、Chroniques de Port-Royalに2号に分けて投稿する。 2)上記研究の日本語原稿を大学紀要に2号に分けて投稿する。 3)パスカル生誕400周年を記念して行われる日仏哲学会協賛パスカル研究会(大阪大学)主催のシンポジウム「パスカルとポール・ロワイヤル」において、「サン・シラン書簡による司祭叙階に関する良心例学とアルノー『頻繁な聖体拝領』生成との関連」のテーマで 口頭発表を行う。 4)上記発表を大学紀要に投稿する。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の間、海外出張ができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度以降、研究に必要な書籍や物品を購入する費用の一部として使用する計画である。
|
Remarks |
・パスカル『病の善用を神に求める祈り』へのコンドラン主義の影響、『武蔵大学総合研究機構紀要』第32巻、2023年9月掲載予定
|