2020 Fiscal Year Research-status Report
19-20世紀転換期のロシア女性作家研究―ジナイーダ・ギッピウスを中心に
Project/Area Number |
19K00508
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
草野 慶子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10267437)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ロシア文学 / ジェンダー / セクシュアリティ / フェミニズム / 皮膚 / 世界文学 / 比較文学 / 女性文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型肺炎の世界的感染拡大により、予定していた海外調査を断念せざるを得なかった。また、研究成果の一部を発表する予定であった学会も同じ理由により中止された。 そのなかで、国内で、あるいはオンラインで遂行可能な研究を進めた。その一部は、論文「書く/愛する私と私の像 ジナイーダ・ギッピウスの『痛み』(1907)について」(Waseda RilasJpurnal 第8号(2020年10月))として公にされている。この論文は、執筆の過程そして執筆後に、本研究課題にとってのみならず、将来の研究の展開に重要な意味をなす発見を研究担当者にもたらしたと言える。すなわち、書くという行為と愛するという行為の同時性と連関が、創造し、他者を欲望する主体としての私、「創造する女性の主体」の立ち上げにとっていかなる契機となるかについて、これを深く考察することが将来の『ジナイーダ・ギッピウス論』にとって決定的に重要だという認識である。 『ジナイーダ・ギッピウス論』とは、本課題終了後に準備する単著の仮題である。今年度はこの単著の構成、その内容を構想することにも着手した。本研究課題以前の諸論文をも再構成し、本研究課題遂行中に得た成果、来年度以降に明確なかたちをとるであろう論考を合わせて、現時点で以下のような構成を考えている。(以下、予定される目次を示す) 1.生涯の素描 獣の比喩 2.そのフェミニズム 3.キスの詩学 4.書簡論1 恋文、冷たさと痛み 5.近親相姦とナルシシズム 6.衣装を纏う、脱ぐ、紡ぐ、編む 7.書簡論2 女性の絆 8.その性愛哲学 9.皮膚の詩学 10. 書く/愛する私
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
20年度の実施状況報告にも記した本研究課題の3つの目標、すなわち、 (1)ギッピウスをはじめとする19-20世紀転換期ロシアの女性作家たちを、現代のフェミニズム文学理論に照らして再読し、考察する。(2)すでに担当者による研究実績豊富なジナイーダ・ギッピウスの性愛論、そして自我論の領域を中心に、総合的なギッピウス論の深化を目指す。(3)20世紀初頭のロシア女性文学を世界文学のコンテクストへと接続し、21世紀日本に生きるわれわれにとってのロシア文学のアクチュアリティを回復する。 以上についてはもちろん、今年度も着実な進捗を見ていると自己評価している。これらの目標は、日本のロシア文学研究者のなかでも本研究担当者のみに達成しうるものと自負してもいるし、それに使命感を持って取り組む姿勢はむろんのこと不変であり、実際に取り組んでもいる。 区分を「やや遅れている」としたのはひとえに、20年度に予定していた海外調査を実施できなかったことによる。ただし「今後の研究の推進方策」にも記すように、感染症拡大の世界状況と各種資料や学術交流のオンライン化の推進、さらに研究手法の微調整によって、必ずしも海外における現地調査を必要としない方針も現在視野に入れ始めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは21年6月に日本比較文学会全国大会での学会発表を控えている。内容はジナイーダ・ギッピウスを現代フェミニズム理論に照らして解読するもので、また時代的にも近い英作家ヴァージニア・ウルフとの照応をも示すものとなっている。今年度はあわせて、全国規模の査読つき学会誌への投稿を含め、複数の論文を執筆する。 また2020年度に予定していたものの、新型肺炎感染拡大により実施できなかった海外調査を、21年度は行いたいと考えている。ただし世界的な新型肺炎感染の推移を慎重に見守り、オンライン化の進む資料閲覧および学術交流の機会を積極的に利用し、海外調査が困難な場合も柔軟に研究手法を調整する姿勢を整え、尊い国民の税金を決して無駄にしない研究のあり方を模索したい。 予定されている補助事業期間最終年度にあたる今年度は、自身の研究の可視化のみならず、研究課題に関連の深い講演会や研究会を企画するなどして、他研究者や一般に学術的交流の機会を提供し、広く社会に貢献することをも目指す。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、2020年度に1回予定していた海外調査を、新型肺炎の世界的感染拡大のため実施できなかったことによる。21年度は、むろん感染状況を慎重に見きわめつつではあるが、この調査を実施したいと考えている。
|
Research Products
(1 results)