2021 Fiscal Year Research-status Report
19-20世紀転換期のロシア女性作家研究―ジナイーダ・ギッピウスを中心に
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19K00508
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
草野 慶子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10267437)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア文学 / 比較文学 / 世界文学 / フェミニズム批評 / ジェンダー / セクシュアリティ / 女性文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も新型肺炎感染拡大による影響は依然大きく、予定していた海外出張を行うことはかなわなかった。一方で、関連する国際学会はオンライン開催され、海外渡航をせずとも国際学術交流は可能になりつつある。21年度はこのようにオンラインによる学術交流、資料調査を実施しつつ、国内での学会発表、論文執筆に取組んだ。 具体的な研究実績としては、学会発表・講演をそれぞれもとにして執筆された論文・講演録を挙げる。すなわち、21年6月日本比較文学会での発表「『流動する主体』と『皮膚』ーージナイーダ・ギッピウスのフェミニズム」をもとにした論文「ジナイーダ・ギッピウスのフェミニズムーーモニク・ウィティッグとの比較を中心に」(『比較文学年誌』第58号)、および、21年10月の早稲田文芸・ジャーナリズム学会での講演「犬と読む書物」をもとにした同名の報告(『早稲田現代文芸研究』第12号)である。 前者の学会発表・論文は、ギッピウスを20世紀後半以降の欧米のフェミニズム理論、とくにウィティッグやジュディス・バトラーと接続するという明確な目的を持ち、あわせて、<主体>と<皮膚>の概念等を通じて、現代日本文学の一端、具体的には松浦理英子の文学との親近性を示すことで、ギッピウスの理論的先進性を指摘し、さらには、ギッピウスを世界文学の文脈に位置づけることを目指すものであった。 後者の講演・報告は、ヴァージニア・ウルフなど犬を描く女性文学を起点に、ギッピウスの生涯と創作における動物の表象、さらに、動物性愛者をめぐる文化人類学的考察、ダナ・ハラウェイの理論を紹介しつつ、文化と自然の境界上に位置する犬という存在を通して、ジェンダー、セクシュアリティを横断する多様な問題群を提示するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の実施状況報告にも記した本研究課題の3つの目標、すなわち、 (1)ギッピウスをはじめとする19-20世紀転換期ロシアの女性作家たちを、現代のフェミニズム文学理論に照らして再読し、考察する。(2)すでに担当者による研究実績豊富なジナイーダ・ギッピウスの性愛論、そして自我論の領域を中心に、総合的なギッピウス論の深化を目指す。(3)20世紀初頭のロシア女性文学を世界文学のコンテクストへと接続し、21世紀日本に生きるわれわれにとってのロシア文学のアクチュアリティを回復する。 のうち、今年度はとくに(1)(3)についての進捗があったため。なお(2)についてはすでに相当量の研究の蓄積があり、これらをあわせて、研究期間終了後にギッピウスに関する単著をまとめるという目標に着実に近づきつつある。 当初予定していた海外出張を実施できなかったことの影響は、オンラインのルートを使ってそれを最小限にするべく努めており、よってこれらを総合的に検討すれば、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ肺炎感染拡大により海外出張を実施できず、研究期間の1年延長をお認めいただいた。だが本年2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、国際的に深刻な影響がさまざま出ていることによって、22年度もロシアへの渡航は難しい状況となった。こうなった以上、オンラインによる国際学術交流および資料調査を最大限行う一方で、国内での研究活動に注力して研究課題を遂行したい。 研究期間終了後にまとめる予定の単著『ジナイーダ・ギッピウス論』(仮題)の構成は、 1.生涯の素描 獣の比喩 2.そのフェミニズム 3.キスの詩学 4.書簡論1 恋文、冷たさと痛み 5.近親相姦とナルシシズム 6.衣装を纏う、脱ぐ、紡ぐ、編む 7.書簡論2 女性の絆 8.その性愛哲学 9.皮膚の詩学 10. 書く/愛する私 である。22年度は、このうちとくに、「6」「7」「8」に関する論文を執筆する。 また自身の研究の可視化のみならず、研究課題に関連の深い講演会や研究会を企画するなどして、他研究者や一般に学術的交流の機会を提供し、広く社会に貢献することをも目指す。具体的には、シモーヌ・ヴェイユを中心に20世紀の女性の思想、表現について、哲学・文学・映画のジャンルを横断する話者を招いてのシンポジウムを企画している。
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Causes of Carryover |
新型コロナ肺炎感染拡大による影響で、海外出張を実施できなかったため。
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Research Products
(4 results)