2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00512
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
村山 功光 関西学院大学, 文学部, 教授 (20460016)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グリム兄弟 / 文化学 / ドイツ・ロマン派 / 記憶 / メタファー |
Outline of Annual Research Achievements |
グリム兄弟の思想の文化学的研究の一環として、まずは思考と図像の相互作用を分析した。具体的には、『グリム童話集』第2版の扉に掲げられた〈農婦〉の肖像画がグリム兄弟とその末弟で画家のルートヴィヒ・エーミール・グリムが時間をかけて〈理想の語り手〉像として形成されたことを、肖像画の3つのヴァージョンを比較考察した。これは、2019年4月に阪神ドイツ文学会研究発表会で口頭発表を経て、11月に物語研究の国際誌 "Fabula"60号に掲載された(査読あり)。 8月には夏季休暇を利用して、フランクフルト(ドイツ)に3週間滞在し、ゲーテ大学図書館で資料収集し、児童文学科のUte Dettmar教授と研究について議論した。調査・議論の対象は、グリム兄弟が用いるメタファーであった。特に、文字で定着されない民間伝承(昔話・民謡など)は〈母乳〉のように吸収されるべきだという〈母乳〉のメタファーは、学者兄弟の〈ロマンチックな〉空想の産物ではなく、18世紀以来の栄養学・衛生学(乳児の死亡率を下げる)、教育思想(ルソー、ペスタロッチが強調した母子の愛情関係)、政治・法律(母親は子に自分で授乳する義務を負う)と結びついていることが次第にわかってきた。 11月には、学会「ゲーテ自然科学の集い」のシンポジウムでグリム兄弟とゲーテの関係の諸相について口頭発表した。一般に関係が浅いと思われていた両者の間には、翻訳論では近さが、時代意識・芸術観においてはズレが見られる。グリム兄弟の弟画家の批判的なゲーテ評も考慮することにより、19世紀前半の思潮(擬古典主義とロマン派)の相克に新たな光を当てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の夏季休暇を利用して、フランクフルト大学の大学図書館で18世紀から19世紀前半にかけての乳児養育に関する資料を集中的に収集することができた。報告者は、グリム兄弟が伝承文芸を小さい子ども、さらには乳幼児に語り込むことを重視するときに、どのような言説を念頭に置いて思考していたかを探っている。 また、グリム童話集の扉絵の肖像画を論じたドイツ語論文を、図像的解釈を深めて日本語で再び論じ直すことで、図像とテクストの関係を再考することができた。 さらに、グリム兄弟とゲーテを論じた口頭発表を通じて、グリム兄弟の翻訳観が1800年期の人々に与えた影響を考える糸口を得た。すなわち、ゲーテの翻訳論が現代にいたるまで参照され続ける文脈の中でグリム兄弟の翻訳論を捉え直す視点だ。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2019年度に収集した資料を解読し、グリム兄弟が民間伝承の受容は〈授乳のように〉行われるべきと主張したことの意味を、そのメタファーを醸成する1800年期の知的連関の解明を通じて明らかにする。特にジェンダー的視点を重視したい。可能であれば、その成果を論文にまとめ、ドイツ語の学術雑誌で発表したい(この研究に関心を持つドイツ人研究者・雑誌の編集者とはすでにコンタクトがある)。 日本独文学会秋季研究発表会では、新しいグリム童話研究の発表グループの司会を任されている。シンポジウムの準備期間を通じて、デジタルメディアや精神療法との関連での研究から知的刺激を得たい。 グリム兄弟の翻訳論には従来から関心があるが、これを〈文化的記憶〉の保存・継承の側面から捉え直そうと考えている。翻訳論だけではなく、彼らの文学概念(VolkspoesieやNaturpoesie、epische Poesie)もこの側面から再考したい。
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