2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00512
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
村山 功光 関西学院大学, 文学部, 教授 (20460016)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グリム兄弟 / ゲーテ / ドイツ・ロマン派 / 美術史 / 翻訳 / 文化的記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、予定していた研究計画が大幅に滞ってしまった。所属機関では5月初頭まで休講、授業はオンラインに切り替えとなり、未経験の対応に追われたのが現状だった。 その中で、2020年10月、論文「グリム兄弟とゲーテの関係の諸相 ― 〈古ドイツ〉文学・民衆ポエジー・翻訳」を『モルフォロギア ― ゲーテと自然科学』第42号に発表した。これは、年齢差もあり一見接点がなかったかのように思われているゲーテとグリム兄弟の〈隠れた〉関係を、〈古ドイツ〉文学への愛着と嫌悪、民衆ポエジーに対する相矛盾する評価、翻訳論の3点において明らかにした。中世文学や民間伝承には、19世紀前半のロマン派だけでなく、ゲーテも(しかも18世紀後半から)関心を持ち続けていたのであり、彼は並みいる〈専門家〉たちの中で、冷静で学術的に信頼できる学者兄弟、個人的に対面し文通も続けたグリム兄弟をこの分野の相談相手としていたのだ。本論文では、この関係をさらに大きなコンテクストに置き直し、この時代のドイツにおける知的ネットワークの一端を示した。すなわち、法学者サヴィニーを中心とするサークル(ブレンターノ、アルニム、ベッティーネ)が文学的関心・編集出版の実践・社交実践など何重にもグリム兄弟とゲーテの関係を準備していたこと、また兄弟の末弟でロマン派画家のルートヴィヒ・エーミールが古典主義的芸術批評家ゲーテと対峙していたのだ。 また、2021年3月に出版された『ドイツ文学の道しるべ ― ニーベルンゲンから多和田葉子まで』(ミネルヴァ書房)の「『グリム童話集』」を担当した。ドイツ文学史の入門書ではあるが、本研究の成果(『童話集』を兄弟の自然憧憬が投影された、文化的記憶としての造形物と捉える立場)を盛り込み、従来のグリム童話観を批判・修正した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により、大学の業務(授業・諸会議のオンライン化)が激増したこともあり、研究に十分な時間が取れなかった。 さらに、予定していたドイツ出張も中止せざるをえなかった。それにより、ドイツの大学図書館での資料調査、研究者との打ち合わせ(フランクフルト大学Ute Dettmar教授、カッセル大学Holger Ehrhardt教授)が実施できなかった。 また、本研究にとって重要な資料の一つである画家Ph.O.ルンゲの書簡全集が(数年来予告されているにもかかわらず)未だ出版されておらず、入手できていないため、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの問題が収束次第、ドイツへ出張し、資料調査および研究者との打ち合わせを再開する。上述の研究機関の他、ベルリン・フンボルト大学所蔵のグリム兄弟遺稿の調査も行う。同大学のグリム研究者Berthold Friemel講師とは、同氏が編集長を務める機関紙に本研究の成果を発表するための打ち合わせもする。 グリム兄弟が〈文化的記憶〉としてメルヒェンを造形した過程を、「灰かぶり」を例にして分析する。すなわちこの物語には、古代ゲルマン信仰のアニミズム、中世の刑罰、キリスト教の神罰が選択的に盛り込まれており、兄弟の考える〈古ドイツ〉の理想が造形されているのだ。この考察の成果は大学紀要(関西学院大学文学部『人文論究』)に発表する予定だ。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していたドイツ出張ができなかったため、次年度にこれを実施するための旅費として使用する。
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