2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K00512
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
村山 功光 関西学院大学, 文学部, 教授 (20460016)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グリム兄弟 / ロマン主義 / メタファー / 文化学 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
一昨年度までは、主に〈グリム兄弟の思考〉を追究してきたが、前年度は兄弟の作品・思想の意外な受容・展開へと視野を広げることができた。すなわち、兄弟が〈自然の名残〉だと美化した〈民衆文化の異質性〉が、兄弟の意図とは別に新たな文学ジャンルの不可欠な養分となったという文学史的問題に取り組んだ。〈古代の自然性を近代人が再獲得する〉という兄弟の意図とは別に、19世紀前半(特にビーダーマイアー期)においては前近代社会の残酷性・野蛮性・性的抑圧が、啓蒙を経て一見無害になった形で子ども部屋のレパートリーに定着して非日常的な異界への憧れをかき立て、ホラー的幻想文学・ファンタジー的児童文学を生むことになり、さらには1900年期のフロイトらの精神分析にも示唆を与えることになるのだ。この点では、A. Koschorkeの論文(Kindermaerchen. Liminalitaet in der Biedermeinerfamilie. 2010)、E.T.A. Hoffmann他の"kindermaerchen"およびW. Hauff "Saemtliche Maerchen"に付されたH.-H. Ewersによる論文が特に啓発的だった。従来、グリム兄弟のメールヒェン蒐集は〈客観的・学術的〉営為として捉えられてきたが、報告者はそれを当初から近代市民家庭イデオロギーに浸透された作業として捉え直している。 本研究はBegriff(概念)・Bild(イメージ)・Buergerlichkeit(市民性イデオロギー)の3章構成で書籍化(ドイツ語)をめざしている。現在の完成率は全体の約70%だ。 2022年8月には、コロナ禍によって滞っていたドイツでの資料収集を再開することができた。併せて、フランクフルト大学のU. Dettmar教授、ゲーテハウスのW. Bunzel教授との研究打ち合わせも行った。
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