2021 Fiscal Year Research-status Report
大正後期―昭和期の日露文学比較研究:自叙と歴史叙述の問題に即して
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19K00517
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 唯史 京都大学, 文学研究科, 教授 (20250962)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日露 / 比較 / 徳永直 / ゴーリキー / 本多秋五 / トルストイ / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も、新型コロナ・ウィルス禍の影響で、資料収集や研究会での発信を予定通りに十全に行うことはできなかったが、徳永直が影響を受けたロシアの作家ゴーリキーの詩学に関するロシア語論文「Структура мира и вселенной в мировоззрении и поэтике М. Горького 1900-1910-х годов」を国際論集『Русская культура на перекрестках истории: Дальний Восток, Близкая Россия』(2021年9月)に発表し、20世紀のロシア語作家グロスマンの炭鉱と炭鉱夫の形象を日本におけるそれと比較対照する日本語報告「グロスマンの短編『生』に見る炭鉱と労働者の連帯の神話」を日本スラヴ学研究会の全国研究発表会ワークショップ「鉱山の風景」で行うことができた(2022年3月30日、オンライン)。 また、本研究の主要な方法の一つである「自叙」の観点による、19世紀ロシアの作家トルストイの中編『コサック』読解の日本語報告「文学空間への旅の向こう:トルストイ『コサック』を読む」をリアリズム文学研究会主催オンライン・シンポジウム「旅するリアリズム:近代文学における外部世界との接触」で行った(2022年1月22日、オンライン)。 2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻の事態を受けて行った日本語によるSRC緊急公開講演「ウクライナ―ロシア文学・文化からの視点」(2022年3月12日、オンライン)、日本語エッセイ「マウリポリ出身の画家クインジのことなど」(コメット通信[水声社]、2022年3月)などにおいても、本研究の方法の主要な軸である「自己意識」「境界」の方法を用いて、社会と市民への一定の寄与をすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主要な理由は新型コロナ・ウィルスによる移動の困難であり、そのため国際学会への参加や海外での資料集を断念せざるを得なかったことである。国内図書館での資料収集も困難を極めた。その中で、上記のように、オンライン学会への参加や公開講演などによって、可能な限りの発信は行い得たと考えるが、研究に十全な進捗があったとは言い切れないような状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
資料収集がある程度進んだと考えられる徳永直とマクシム・ゴーリキーの比較研究については、ゴーリキーに関する日本語・ロシア語論文を既に発表し、また徳永直を本務校のオムニバス講義でテーマとするなど、口頭による一定の社会還元も行ったが、これを今年度中に論文にすることをめざす。 本多秋五とレフ・トルストイの比較研究については、後者の言説分析に関するパネル報告、前者のトルストイ受容に関する学会発表を既に終え、必要な資料の収集もほぼ終えているので、これもまた論文として発表することをめざす。 原民喜とオリガ・ベルゴーリツの比較研究については、特に後者に関する資料収集を海外の図書館等で収集することができなかったので、遅れている。ロシア軍のウクライナ侵攻の事態を受けてロシアへの渡航がさらに困難になっている状況に鑑み、国内で可能な資料の収集に努め、次年度の発表をめざして論文執筆に取り組む。 日本の「内向の世代」と「抒情的散文」の比較研究についても、事情と対策は上に同じである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナ・ウィルス禍の影響で、対面による報告、国内外の図書館で資料収集を行うことがほぼできなかったため、特に旅費を使用する機会が予想よりもはるかに少なかったためである。 新型コロナ・ウィルスは2年に及んだため、前年度からの繰越金があったことも影響している。 今年度は、ある程度の移動の自由が見込まれるため、可能な範囲で資料収集や口頭報告を行い、適正な使用を心がける予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Book] 騎兵隊2022
Author(s)
イサーク・バーベリ作、中村 唯史訳・解説
Total Pages
256
Publisher
松籟社
ISBN
9784879844156