2023 Fiscal Year Annual Research Report
大正後期―昭和期の日露文学比較研究:自叙と歴史叙述の問題に即して
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19K00517
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 唯史 京都大学, 文学研究科, 教授 (20250962)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日露比較 / 文学 / 大正末期 / 昭和戦前期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、これまで研究の蓄積が必ずしも多くなかった大正期から昭和期にかけての日露比較文学を目的としたものである。 最終年度に当たる2023年度は、同時代のソ連文学理論の影響を踏まえて日本プロレタリア文学の代表的な作家である徳永直の転向問題を考察したロシア語論文を、イタリアの権威ある学術雑誌の特集号に掲載した。また、雑誌側の都合によって年度内には刊行されなかったが、批評家本多秋五が太平洋戦争戦時下でトルストイの『戦争と平和』の考察に没頭した理由と経緯を、この長編小説の世界観や当時の日本の思潮状況などを視野に入れながら考察した論文を執筆した。 この研究期間は、新型コロナ・ウィルス禍と、特にロシア軍のウクライナ侵攻という事態と重なっていたため、特に後者を受けて、日本におけるロシア研究の意義を自問せざるを得なかった。このような事情は、ロシア文学史を紹介する書籍の共編著および、その中での日露比較文学を含む諸章の執筆、いくつかの事典における日露の差異が明確に表れている項目の執筆、あるいは複数の公開講義や講演に反映されているが、本研究の課題それ自体にも顕著な影響を及ぼした。すなわち考察を大正末期から昭和前期、特に太平洋戦前から戦時中の日本におけるロシア文学の受容と影響に焦点を絞る結果となり、計画の一部であった昭和戦後期の日露比較文学に関しては、現時点ではかたちある成果をなしていないのである。ただし、第二次世界大戦後のソ連文学に関する考察については、種々の研究会等で報告を行い、多くの批評を受け、成果があった。同時期の日本文学との話型の比較を行っていくための基盤を構築することはできたと自己評価している。
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