2019 Fiscal Year Research-status Report
柳宗悦による朝鮮フィールド調査と朝鮮民芸言説の近代性に関する研究
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19K00524
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Research Institution | Hokkaido University of Science |
Principal Investigator |
梶谷 崇 北海道科学大学, 未来デザイン学部, 教授 (10405657)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 柳宗悦 / 民藝運動 / 柏崎 / 朝鮮 / 浅川伯教 / 浅川巧 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は本研究初年度であり、①研究課題に関する問題提起を関連する学会で行い、研究者と関係を構築することと、②地方の関連資料の基礎調査を行うことに重点をおいて活動をおこなった。 ① 2019年6月開催の第81回日本比較文学会全国大会においてシンポジウム「近代日朝文化交流の再検討ーー近代と伝統、都市と地方」を企画し、波潟剛、李賢晙、柳忠熙、韓然善らとともに、1930-40年代にかかる柳宗悦、崔承喜、崔南善、村山知義などの日朝知識人・文化人たちの思想活動について検討を加えた。ここでコロニアルな関係性の中で彼らが日本・朝鮮を留学や調査旅行等を通じて移動しながら両国の文化的関係性を捉え、独自で多様な観点から文化活動を展開していた実態について知見が得られた。研究者間で本テーマに関する課題認識の共有と、研究協力の関係性を築くことができた。今後の研究活動につなげたい。 ② 柳宗悦の日本国内での調査旅行の実態をたどることを目的に、民藝運動で重要な拠点となった大分県日田市、山梨県北杜市、長野県松本市に所在する資料館等を訪問して見聞を広げた。また、従来民藝運動の研究においては取り上げられることの少なかった新潟県柏崎市との関係性の調査のため戦前から戦後にかけて発刊された地元紙『越後タイムス』の調査を行なった。同紙は「下手ものゝ美」が掲載された新聞であり、民藝運動にとって重要な役割を果たしたのだが、民藝運動そのものは柏崎においては大きな展開はしなかった。しかし、本調査を通して吉田正太郎ら柏崎の地元名士たちの間で、柳の朝鮮陶磁器研究や木喰上人研究への関心の高まりがあり、柳と柏崎グループとの間のやりとりを通して「下手ものゝ美」が書かれたプロセスが明らかになった。今後、本調査を論文化すると同時に、柳のフィールドワークや地方との関係性について他地域も含め調査を拡げていく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は5年間の研究計画とし、2019年度を第1期(基礎的な調査)、2020-2021年度を第2期(具体的な調査・資料収集活動)、2022-2023年度を第3期(最終的な分析とまとめ、論文発表)と位置づけている。第1期である2019年度は研究代表者のこれまでの研究をベースとしながら、今後5年間の研究テーマについての基礎的な検討と調査を計画しており、「研究実績の概要」で記した通りの活動を行なった。 2019年度は当初計画通り概ね遂行できたといえる。全国学会におけるシンポジウムを通して関連する研究者との意見交換を行うことで、研究課題について他の研究者の目を通して精査することができ、加えて研究協力関係も構築できた。また全国のいくつかの民藝運動に関係する地域、施設等の視察を通して、本研究課題で扱う資料等についても基礎調査や整理作業ができた。柏崎市立図書館における『越後タイムス』等資料の調査においては当初計画以上の収穫があった。重要な資料についてはリストやカード作成も行い、研究分析が非常に進展した。また山梨県北杜市に所在する浅川伯教・巧兄弟記念館においても、多くの資料や文献を入手し、本研究テーマに資する知見を得られた。今後はそれらの文献資料の分析を行なっていく。資料の収集という面では、2019年度は当初計画以上の進展があったと言える。 一方、第2期として位置づけている2020-2021年度においては、韓国の研究協力者に依頼して韓国での柳のフィールド調査活動を追う計画でおり、2019年度中にそれに向けた打ち合わせをする予定でいたが、年度末の新型コロナウィルスによって訪韓の見通しが立たなくなったこともあり、計画の変更をせざるを得なかった。第2期においては、「今後の研究の推進方策」にも記す通り、日本国内での調査活動を優先的に行うことになる。国内調査について早急に計画を立てる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では2020年度以降、韓国における柳宗悦のフィールドワークを追って、現地研究者と協力して調査を行う計画でいたが、2019年度末より発生した新型コロナウィルスの大流行によって、その計画は一旦保留せざるを得なくなった。現地での調査については海外渡航の解禁状況を見て判断することになり、現時点(2020年6月)では見通しが立っていない。 以上の状況を受けて、当初計画を変更することになるが、本研究テーマは柳宗悦の民藝運動におけるフィールドワークを検討するものであり、調査対象は韓国だけでなく日本各地にも及ぶ。したがって2020年度は、日本国内での調査を前倒して重点的に行い、各地の民藝運動関連の資料収集と分析を優先的に行うすることで対応したい。また韓国で行う予定であった調査については、実地での調査は2021年度以降に改めて計画することとし、さしあたり韓国の各種研究情報ポータルサイトや韓国の研究協力者に協力依頼することで可能な調査は継続する。 渡航制限が今年度中に解除されず、来年度(2021年度)においても継続されるようであれば、研究テーマ全体の調整やテーマ自体の再検討もする必要がある。たとえば柳宗悦の民藝運動とフィールドワークの検討を主として日本国内での活動に焦点化して分析対象とするなどが考えられる。それについては今後の状況を見ながら判断したい。
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Causes of Carryover |
当初、韓国の研究協力者との打ち合わせや予備調査を目的とした研究出張および日本国内における調査出張を計画していたが、一部計画通りの出張ができなかったことが大きな要因である。 2020年度も主たる支出目的は出張旅費であるが、第一四半期はすでに移動が厳しく制限され、またそれ以降も韓国への渡航制限解除が見通せない状況である。 が、国内での移動は徐々に可能となってきていることから、研究費は国内での調査に有効に活用していきたい。
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