2020 Fiscal Year Research-status Report
柳宗悦による朝鮮フィールド調査と朝鮮民芸言説の近代性に関する研究
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19K00524
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Research Institution | Hokkaido University of Science |
Principal Investigator |
梶谷 崇 北海道科学大学, 未来デザイン学部, 教授 (10405657)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 柳宗悦 / 柳兼子 / 民藝 / 民藝運動 / 朝鮮 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、3件の論文投稿、1件の学会発表を行った。また新潟県、山陰地方をめぐり、柳と民藝運動が展開された地域に関する資料や文献等を収集、分析した。 投稿した3件の論文のうち2件は、柳宗悦、柳兼子らが1920年に行った音楽会活動を中心に分析したものである。柳宗悦は美的理論の啓発活動を国内外で熱心に行ったが、それは柳が日本および朝鮮各地へと彼を誘った。この地方での活動を通じて柳は民藝を発見し、民藝運動へと活動を発展させていく。その初期段階にあたる20年代、宗悦は声楽家である妻の兼子を伴い、地方での音楽会活動も展開していた。地方巡回はフィールドワーカーとしての柳宗悦の原型ともいえる。これらの論文では兼子の地方公演を通して、柳夫妻と地方の関係性に注目した。 もう1件の投稿論文と、学会発表は柳宗悦の「自然」概念について分析したものである。民藝論はそれが生み出される郷土の伝統文化、生活および自然環境に美の根拠を求める。柳宗悦も朝鮮の自然環境に着目している。ここでは原点に立ち返り柳の「自然」概念について白樺初期の思想から検討した。柳の自然観にはエマソンやブレイクなど超越主義、神秘主義的な自然観が流れ込んでおり、それが民藝理論にも反映されていることを明らかにした。 この年度では新型コロナの流行により韓国での調査は断念せざるを得なかったが、新潟県、山陰地域での出張調査を行うことができた。両地域は民藝運動が展開された代表的な地域であり、そこには吉田正太郎、式場隆三郎や吉田璋也といった柳宗悦を支えた民藝運動家が大きな足跡を残している。調査ではそれらに関連する施設や資料を見学、閲覧して情報収集に勤めた。調査では、国内における実地活動についての情報を得ることができたが、これらは柳宗悦のフィールドワーク全体を検討する際の資料と位置付けられる。次年度以降この調査を論文としてまとめていく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、韓国への出張調査を計画していたが、海外渡航が禁じられ実施することができなかった。韓国では関連文献資料の閲覧や韓国の研究協力者との打ち合わせ、柳の足跡を実地に見学することなどを予定していた。それらの計画は次年度以降、社会情勢を見ながら実施を検討する。 一方で、本研究テーマは国内での民藝調査等のフィールドワークも分析対象としていることから、本年度は次年度以降に実施を計画していた国内での調査を前倒しで行った。また研究手法も文献資料分析が中心であることから出張調査ができないことはそれほど大きな障害とはならず、デジタル化資料や複写サービス等を活用して可能な調査を行った。 当初計画とは実行順序が入れ替わる形になっているが、進捗状況としては大きく遅れているとは言えない。最終的な研究目的に向け、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
海外渡航の状況が見通せない状況は今後も当分間続くものと見做し、国内外への出張調査に依存した調査方法は見直しを図る必要がある。 購入可能な資料や文献複写サービス、デジタル化資料および韓国の研究協力者の助力を得て、資料収集につとめて調査、分析を進める。
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Causes of Carryover |
当初計画していた海外および国内調査が中止となったため出張旅費分が執行されなかった。 次年度は中止した出張を実行するとともに、図書の購入やPC等のIT備品の購入費用として使用する計画である。
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