2020 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツ語圏多感主義における句読法とその翻訳可能性
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19K00527
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Research Institution | Kunitachi College of Music |
Principal Investigator |
宮谷 尚実 国立音楽大学, 音楽学部, 教授 (40386503)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 句読法 / 18世紀ドイツ語圏 / ヘルダー / 言語起源論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画通り、本年度はヨハン・ゴットフリート・ヘルダーの著作、特に『言語起源論』で用いられた各種の補助符号を手がかりとして18世紀ドイツ語圏における句読法の一断面を明らかにした。その際、同時代の言語学者であり近代ドイツ語正書法の整備に貢献したヨハン・クリストフ・アーデルングによる句読法手引に記された符号の種類や使用法を参照することで、当時の句読法をめぐる状況からヘルダーの句読法を読み解いた。ヘルダーの『言語起源論』には自筆稿や清書稿、初版と第2版という諸段階があり、そのプロセスで変更された符号もある。その後の複数の校訂版において補助符号がどのように変更されたかを比較検討し、さらに日本語訳において句読法をいかに「翻訳」できるのかという問題についても考察した。 18世紀ドイツの句読法が文書における「声」の表現と関わることがヘルダーの『言語起源論』をアーデルングによる句読法手引書との対照による分析から明らかになった。こうした文体的特徴を含む18世紀ドイツ語圏の著作を翻訳する際、句読点などの補助記号を、日本語としての読みやすさの犠牲にするべきではない。明治期日本の文学者たちは西洋の言語や文学に接して日本語の新たな句読表示を模索した。外国語の句読法への意識は、読解の助けになるだけではなく、自らの文章表現を豊かにすることにも役立つ。時間に追われて手早くキーボード入力することに慣れた現代社会の我々に対して、句読法は読み手への配慮のために立ち止まることを促す。オンライン授業で提出される学生たちの表記法の乱れに、句読法への意識を高める必要性と本研究の重要性を強く感じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、ヘルダーの著作における句読法に関する論文を研究成果として公表できた点では順調な進展と言って良い。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、本来であれば実施予定であった資料や文献の調査のための渡航がすべて実現しなかった。またイタリアで開催されるはずであった国際学会も中止になり、大幅に当初の予定が狂ってしまった。その点では自分では研究の進展にまったく満足できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画で予定していた昨(2020)年度のイタリアでの国際学会への参加がなくなってしまったため、論文集への公刊はその予定を変更せざるを得ない。だが昨年度も研究成果の印刷物としての公表は実現しており、2021年度も国立音楽大学『研究紀要』への研究成果公表は予定している。海外への研究成果発信という点ではまもなくドイツで公刊される論文が1点あり、校正もすでに終了しているところである。新型コロナウイルス感染拡大のためおそらく今年度も現地ドイツでの文献調査は実現できないことが予想される。その場合、本研究は本来であれば今年度が最終年度にあたるが、海外渡航をともなう研究活動に関しては来年度に持ち越すことを希望している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で当初予定していた海外渡航がすべて実現できなかった。そのため、旅費の支出が0となってしまった。次年度もおそらく海外渡航が困難な状況は変わらないと予想される。再来年度に海外での資料調査を強く希望しているところである。
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Research Products
(1 results)