2021 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツ語圏多感主義における句読法とその翻訳可能性
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19K00527
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Research Institution | Kunitachi College of Music |
Principal Investigator |
宮谷 尚実 国立音楽大学, 音楽学部, 教授 (40386503)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ語圏文学 / 18世紀ドイツ文学 / 句読法 / ゲーテ / 若きウェルテルの悩み / 若きヴェルターの悩み |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、18世紀ドイツ語圏文学のうちゲーテの初期作品を中心に同時代の句読法指南書を含めた研究を進めた。特に、ゲーテ『若きヴェルターの悩み』におけるダッシュ(Gedankenstrich)の分析を手がかりとして18世紀ドイツ語圏文学における句読法の一断面を明らかにした。初版(1774年)と改訂版(1787年)を比較すると、改訂版においてダッシュの使用回数が顕著に増え、補助符号も多様化していた。『ヴェルター』におけるダッシュのさまざまな機能を、アーデルング『ドイツ語正書法完全手引』も参照して分析することにより、イギリス多感主義文学からドイツ語圏にも取り入れられたこの補助符号の系譜が浮き彫りになった。初版からヴェルターの激しい感情が句読法に反映されていることには、若きゲーテにイギリス文学の手ほどきをしたヘルダーの影響がみられる。1772年7月にゲーテは、いずれ『ヴェルター』の物語の舞台となる町ヴェッツラーでヘルダーの『現代ドイツ文学断章』を読んで強い感銘を受けた。この著作においてヘルダーは、その師ハーマンからの影響を強く受けていた。ハーマンからヘルダーへ、ヘルダーからゲーテの『ヴェルター』へと脈々と受け継がれたのが、根源的かつ詩的言語における情熱の表現としてのダッシュだと考えられる。読み手や聴き手の思考や共感を要求する「沈黙の記号」としてのダッシュを日本語の縦書き文で再現することは容易ではない。音楽と言語の狭間に位置する句読法を日本語への翻訳においていかに反映させるか、その取り組みを提示することで今後にむけた翻訳の課題や可能性を提示することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定していた研究成果を論文として公表できた点では順調に進展しているとも言えるが、本来実施する予定であったドイツでの資料調査および収集がCOVID-19感染拡大による渡航制限のため2年間にわたり実現できずにいる。オンライン授業による普段の負担増加や時間不足も大きく影響した。特に本年度の研究対象であるゲーテ『若きヴェルターの悩み』の手稿については、活字転写された資料のみしか用いることができなかったため「やや遅れている」とした
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19感染拡大の影響のみならずウクライナ情勢による影響も加わったことで、今年度も渡航への支障が予想される。渡航が可能だとしても、現地での施設利用などに際して制限や不便が想定されるため、不確定要素が引き続き多い。2023年3月にドイツ・リューネブルクで予定されている国際学会へも招待はされているが、さしあたり今後のヨーロッパの状況を見守るしかない。まずは計画通りにこれまでの研究をまとめた学会発表や論文執筆を行う予定である。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大の影響による渡航制限で、2020年度および2021年度に予定していたドイツでの資料調査および資料収集をはじめとする研究作業が全く実施できず、渡航費や宿泊費の支出が一切できなかったため。今年度、渡航制限が緩和され、現地での研究活動が実質的に再開できるようになった場合には、助成金を予定通りに使用する。
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Research Products
(1 results)