2020 Fiscal Year Research-status Report
「放浪者」像の比較文学―-「アメリカ」的物語の文化政治学
Project/Area Number |
19K00529
|
Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
中垣 恒太郎 専修大学, 文学部, 教授 (80350396)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ホーボー / ヒッピー / 放浪者 / 対抗文化 / 精神文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ文学文化における「放浪者」表象を歴史的に辿りながら、21世紀初頭の現在、「ホーボーの末裔」としての現代の労働者たちの問題もあわせて検討する。グローバリズムの拡大に伴い、コーポレーション化が進む産業構造の中で、低コストを可能にする労働力として不法移民たちの労働力の存在がある。「ホーボーの末裔」としての現代の労働者たちの問題もあわせて検討する。 ライフ・ラーセンによる小説『T・S・スピヴェット君傑作集』(2009)およびソニア・ナザリオによるノンフィクション小説『エンリケの旅』(2006)は、もともとは「渡り労働者」を指す用語であった「ホーボー」のイメージが21世紀になってなおもアメリカ文化に様々な形で継承されていることが伝わる格好の例となる。同じように長距離貨物列車への無賃乗車を試みる少年を描いた物語であるにもかかわらず正反対の状況を反映している。すでに失われた光景に対する憧れを描いた物語世界と、過酷な世界に生きる違法移民労働をめぐる社会問題の側面との間の圧倒的な格差がここに示されている。放浪者をめぐる物語は本質的にアメリカの理想と現実の表裏一体をなすものである。自由を目指すロマンと現実とのギャップこそがアメリカ独自の物語を生み出してきた。グローバリズムの拡大に伴い、コーポレーション化が進む産業構造の中で、低コストを可能にする労働力として不法移民たちが機能している現実もある。 あるいは、映画化された『ノマドランド』(2020)が示すように、「トレーラーハウス」と称される車に居住して生活を営む生活困窮者層は現在も一定数存在が確認されており社会問題と化している。 ホーボー像の変遷を通してそれぞれの時代に込められたアメリカの理想の姿が見えてくる。その背後に潜む現代の渡り労働者たちの姿や階級の問題に焦点を当てることで、分裂が進むアメリカの課題もまた浮かび上がってくる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
成果物としての論文、出版企画が遅れている。本年度は課題研究最終年度ということもあり、論文・出版企画の執筆に力点を置きたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では何件か海外での研究発表の予定があり採択通知も得ていたが、新型コロナウイルスにより中止あるいは延期となったままである。国際学会での研究発表および海外での資料調査の計画は変容を余儀なくされている。 本年は本研究課題の最終年度にあたり、研究成果を論文・出版企画に繋げる段階に位置づけられる。すでに各種学会で研究発表を行った口頭発表原稿を発展させる形で成果報告の準備を引き続き進めていく。 人文科学研究もまた社会状況のあり方と不可分な関係にあり「文化政治学」としての表象文化・比較文化研究である本研究課題においては、現在の疫病の蔓延により顕在化する社会構造の諸問題も見過ごせない論点となる。本研究課題で扱うテーマである「移動労働者」の存在は災害に代表される非常事態において厳しい立場に置かれることが多い。アメリカでは大統領選挙をめぐる混乱も大いに話題となった。現在の社会状況を踏まえた上で、本研究課題の社会的意義についても自覚的な研究のあり方を探りたい。 具体的には、21世紀現在のアメリカおよび世界を展望する研究論文を紀要などの媒体を利用して発表しながら、当初の目標である出版企画の達成を目指す。
|
Causes of Carryover |
海外での国際学会への参加、資料調査が世界的なコロナウイルスの蔓延により実施できなくなってしまったため。本年度も同様の状況が見込まれるために、基礎資料の整備と成果報告準備に力点を置く形で対応する。
|
Research Products
(5 results)