2020 Fiscal Year Research-status Report
図像研究/物語研究の統合アプローチによるマンガメディア特性の解明
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19K00539
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Research Institution | Institute of Wellness and Ecological Sciences (Global Research Center for Applied System Science) |
Principal Investigator |
小山 昌宏 有限会社自然医科学研究所(実証システム国際研究センター), 実証システム国際研究センター, 研究員 (00644494)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 明彦 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 教授 (00264573)
小池 隆太 山形県立米沢女子短期大学, その他部局等, 教授 (00351734)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | comics / iconography / narratology / semiotics / morphology / ecological psychology / media studies |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は3名によるオンライン研究会を6月、11月、3月に行った。小山は「絵画論的マンガ研究-描画論における「言語と絵画」の並存性と接続性」、小池は「マンガにおける語り生成性 ―羽海野チカ『ハチミツとクローバー』におけるコマ間内語」、高橋は「表現論と物語論の架橋(私案2)―マクラウド『マンガ学』のユニバースマップ」を報告し各回討議をおこなった。 小山は主催のオンライン研究会を計4回開催し、その経過を踏まえ社会文化学会第23回全国大会にて報告し、単著論文「高畑勲におけるディストピア表象とユートピア表現」(『アニメーション研究』第21巻,第1号 日本アニメーション学会)、「マンガメディアにおける形態学的描線論から生態学的描画論への転換に関する考察(前・後)-「マンガ原論」から「基礎マンガ学」への絵画論的基礎の試み」(竹内オサム編『ビランジ』46,47号)の3本、書評「足立加勇『日本のマンガ・アニメにおける「戦い」の表象』現代書館、2019年」(『マンガ研究』第27号、日本マンガ学会)、他「ヒトコマまんが集」の書評2本、計3本を執筆した。 小池は講演「「マンガ」を「研究」する」(山形県立米沢女子短期大学公開講座:於 同大学 全3回)、講演「マンガの物語論」(同大学出前講座:於 田澤寺 全2回)をおこなった。また単著論文「羽海野チカ『ハチミツとクローバー』におけるコマ間内語」(『山形県立米沢女子短期大学紀要』第56号)、「物語構造論からみる宮崎駿監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』『天空の城 ラピュタ』から『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』まで」(岡本健・田島悠来編『メディア・コンテンツ・スタディーズ』)を著述した。 高橋は造形作家、画家を招いてオンライン研究会を2回開き、単著論文「「へびと楳図神学 ―楳図かずお『へび少女』の源流と支流」『金沢美術工芸大学紀要』第65号)を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マンガ研究における図像と物語の相互浸透によるマンガメディア独自の特性を解明する本研究において、こうした3名の研究視座は以下にその意義が要約される。まず小山の研究は、映画論、記号論に依拠してきたマンガ研究の枠組みからいったん離れ、マンガが「絵画」であるとの認識から、画そのものがもつ内在的な力能を再評価し、それがコマ連環をともなう時空間表象を再構成するにあたり中心的な作用をなしていることについての検証をおこなうものであった。それはマンガ表現論においてはコマとキャラクターの相互作用による作家の表現と読者の読みが一意的に結びつけられてしまったために、本来マンガがもつ作画の力がキャラクター認知、コマ割の効果に結びつけられて語られてしまうことへ疑念を確認するものとなった。 また小池の研究は小山の研究を前提とし、物語論の枠組みからマンガの語りと読みがいかにマンガの視聴覚特性へと影響を及ぼしているのかが図られている。それはマンガにおける「視点」と「パースペクティブ」との関係から物語生成のプロセスのダイナミズムについて検討し、マンガの物語における「語りの位置」が「内語」によってどのように制御されているのかを明らかにしている。この研究により、単なる図像であるキャラクターそのもの、またはそれらの言動、行動などに依拠する視覚的な「物語構造」に基づくミクロ分析を越えて、マンガテクストが有する物語生成に基づくマクロ分析の意義が織り込まれた。 さらに高橋の研究は、小山、小池の提示した課題を、テクストにおけるテキスト及び叙述、イメージ及び記述の背反と融合のプロセスとして、それをマンガメディア特性の根幹に据えて解明する手立てをとっている。具体的にはマクラウドのマンガ理論の解釈の再検討とそれを通して、プラトンからスピノザ、ベルクソンにいたる西洋哲学の系譜においてマンガテクストの新たな読みを構築する土台を築いた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目の今年度は、2年間の成果を体系的に叙述するとともに各自各論を深める。その成果は論集として今年度から編集に入り来年にかけて出版を行う予定である。 まず小山は、マンガメディアの絵画特性を生態学的に論じた成果を、言葉と画の並存、対立、浸透、融合の観点からさらに分析をおこなう。その入り口はオノマトペの視聴覚言語特性の研究である。次にマンガの画が、コマ割との関係をどのように運んでゆくのかについて、全体論-部分論(メレオロジー)的観点からマンガの文法と修辞の関係性を視野にいれて論究する。最後に物語論との接合において、画像(1コマ)として現われ、映像(多コマ)として連動するマンガテクストの枠組みとその内容、すなわち表現と表象を、能動、受動、中動の各態から考察し、マンガテクストのメディア特性を絵画論と物語論的見地からその統合可能性について探究する。 次に小池は、マンガメディアの視覚表現性からは見えてこないメタ的な物語生成について、「語りの位置」と「内語」の関係性から、その視覚言語性と物語構造性との間にズレや隙間、重複が生まれることにより、物語生成が可能になることに着目し、マンガ特有の「語り」と「読み」を図像分析における「視点」「パースペクティブ」との関係から見直し、小説のための「物語論」をあらたなマンガの物語生成論として組み替えをおこなう研究をおこなう。 最後に高橋は、マクラウドの『マンガ学』の再検討をおこない、プラトン、アリストテレス、スコトゥス、デカルト、スピノザ、カント、ベルクソン等の西洋哲学の文献に学び、テキストとイメージについてあらたな関係性抽出を行う。この研究はプラトン、アリストテレスの論述に依拠したマンガメディアの形相と質料のメディア枠組みをさらに拡張し、小山の生態学的アプローチと小池の物語論的アプローチを結びつける、マンガテクスト読解のための見取り図を想定するものとなる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により研究会、学会など対面開催の中止により、旅費費の当初予算の執行が大幅に変更され、その代替処置を含むものになったため。物品費:プリンターの故障により予算になかったが購入したため。 今年度は旅費の代替、オンライン研究会の多数開催によるパソコンの酷使を念頭において、物品費を具体的に計上する(パソコン、周辺の光学機器など)人件費・謝金: 旅費の代替としてあてがわれたが、必要に応じて今年度は講演依頼を含め、計画的に使用計画をたてる。
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Research Products
(8 results)