2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00540
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清水 誠 北海道大学, 文学研究院, 教授 (40162713)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドイツ語 / ゲルマン語 / 歴史言語学 / 言語類型論 / 文法性 / 格 / オランダ語 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究1年目にあたって、図書 (単著) 1点、論文2点を刊行した。 2点の論文は、ドイツ語の示す形態論的特徴から出発して、ゲルマン諸語との比較を全面的に扱った体系的考察である。分析対象は、古ゲルマン諸語、現代ゲルマン諸語と他の印欧諸語を合わせて50余りの言語・方言に及んでいる。論文「ドイツ語から見たゲルマン語-名詞の性、格の階層と文法関係」は、印欧祖語の「有生と無生」の対立に基づくと推定される名詞の性 (文法性 gender) の発達、自然性 (sex) との関係から見た共時的な構造的機能、そして、印欧祖語の8つの形態的な格のゲルマン諸語への継承と発達について、「名詞句優位性の階層」(Noun Phrase Accessibility Hierarchy)、自由関係文での「格の不一致」(Kasuskonflikt) などの類型論的観点を交え、具格 (instrumental) の残存表現などについて分析したものである。「ゲルマン語形容詞変化の歴史的発達 (3)-西ゲルマン語 (2)」は、前回の科研費からの継続課題であり、全3回の最終稿にあたる。今回は低地ドイツ語、オランダ語、西フリジア語、アフリカーンス語を加え、合計3編の論文について全体的考察を施した。 著書『オランダ語の基本』は384ページに及ぶオランダ語の記述であり、類書としてはこれまで日本で刊行された中で最大の規模を誇る。附属のMP3は、オランダ在住の音声学の専門家との協力を通じて、praat 等の音声分析ソフトを活用して完成したものである。本書はたんなる入門書ではなく、前回の科研費による成果を継承し、本研究の援助を受けて完成したもので、現代言語学的な観点を随所で取り入れている。 2019年8月26~29日に北海学園大学で開催されたアジアゲルマニスト会議 (AGT)への寄与については、「現在までの進捗状況」で言及する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今回の研究成果の中で、著書『オランダ語の基本』は、前回の科研費からの継続課題であり、残りの部分を最終的に完成させたものである。その意味では、前回の科研費に負っている点は認められる。しかし、現在の科研費の援助によって補った部分もけっして少なくない。同著書は384ページに達しているが、全体的構成の再考と大幅な修正、細部のチェック、語彙集、発音・文法・語彙索引、それに、合計4回にわたる校正作業は、もっぱら2019年度内に行った。また、上記2点の論文「ゲルマン語形容詞変化の歴史的発達 (3)-西ゲルマン語 (2)」と「ドイツ語から見たゲルマン語-名詞の性、格の階層と文法関係」は、現在の科研費の交付を受けて全面的に執筆したものである。両論文の分量も、合計76ページに及んでいる。本研究は、古今のゲルマン諸語の構造を歴史言語学的・言語類型論的観点から総合的に分析・記述し、その成果を生かしてドイツ語の構造を体系的に再記述することを目指しているが、2019年度については、名詞・形容詞を対象とすることになった。これは全体の5分の1に相当する領域であり、その意味では具体的成果が順調に結実したと言うことができる。 特筆するべき点は、2019年8月26~29日に北海学園大学で開催されたアジアゲルマニスト会議 2019札幌大会 (AGT [=Asiatische Germanistentagung] 2019 in Sapporo) において、分科会 Einheit und Vielfalt: Sprache in der Geschichte und in der Gesellschaft の責任者を務め、本研究の趣旨を取り入れて、国内・海外の8名の発表者と連絡を取りながら開催し、本研究の意義を国際的にアピールすることができた。その意味では、当初の計画以上に進展していると評価することができよう。
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Strategy for Future Research Activity |
4年後の最終年度には、研究成果を『ドイツ語とゲルマン諸語』等のタイトルを付した単著の学術書として刊行することを目指しており、扱う領域を順次、拡大していく予定である。ただし、今年度は、新型コロナウイルス感染拡大による甚大な支障が予測される。 まず、6月には日本独文学会春期研究発表会で「ドイツ語から見たゲルマン諸語の属格修飾語と所有表現」と題する研究発表を行うことが決定していたが、新型コロナウイルス感染拡大によって開催が中止になった。目下、10月の秋期研究発表会に再度、応募することを考えているが、国内の大都市圏への出張が大幅に制限されている現況では、実現に不安をかかえている。次に、旅費を活用して北欧またはドイツ語圏、ベネルクスに出張し、最新の資料収集と関係研究機関との交流を計画していたが、現在、海外渡航は厳禁されており、改善のきざしはまったく見えていない。さらに、海外から研究文献を調達しようとしても、取り寄せることがきわめて困難な状況になっている。学術雑誌についても、大幅に刊行が遅れ、Cambridge University Press をはじめとする主要出版社で、編集・刊行に重大な支障が生じており、図書館等での利用もままならない状態にある。こうした未曾有の世界的な危機的状況のもとでは、学術活動一般が深刻な停滞に陥ることは避けられず、本科研費も適切な使用を阻害されることが深刻に懸念される。現状が早期に好転しない場合には、来年度に必要金額分を繰り越すなどして、適切に対処したい。 論文執筆については、今年度は、性・数の諸相、冠詞、代名詞、数詞を扱う予定である。また、昨年度、分科会の責任者を務めたアジアゲルマニスト会議 (AGT) の論文集として、Tagungsband AGT 2019 in Sapporo の査読・編集作業を進めており、ぜひとも今年度中の刊行を目指したい。
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Research Products
(3 results)